常用漢字から消えた五文字 第4章
第3章では、常用漢字表が固有名詞を原則として対象としないなかで都道府県名の漢字と準じる字が例外で入ったことを見ました。この章では、追加の別の理由として交ぜ書きと読み取りの効率性を見ていきます。
名簿に入った側には、都道府県名の例外以外にも選定の観点がありました。出現の多さだけでは説明しきれない入場の理由を、答申とぶんかるの文言に沿って一つずつ追います。字数の増減は第1章、消えた5字は第2章で見たとおりです。
選定の観点の一つに、漢字仮名交じり文を読み取るときの効率性があります。文化審議会の「改定常用漢字表」答申は、入れると判断したときの観点②として、この読み取りの効率性を掲げています。
文化庁広報誌ぶんかるも、答申と同じ観点の整理を紹介しています。観点①の出現頻度と造語力とは別に置かれた項目であり、頻度の高さだけが入り口ではない、という立て方がここに現れます。選定の表では、入れる側の理由が複数並び、読み取りの効率性はその一つとして示されています。
ぶんかるは、平成22年の改定で読み取りの効率性を上げる漢字が選ばれた、と書いています。それまで「謙そん(遜)」「進ちょく(捗)」「危ぐ(惧)」など、熟語の一部が常用漢字にないために交ぜ書きになることがあった、ともあります。
それらを減らし文を読みやすくしようとした、というのが改定の説明です。現行の常用漢字表の本表を照合すると、遜・捗・惧は掲げられています。交ぜ書きの例として挙げられた字が、いまの本表の名簿に入っている、という照合になります。
答申の観点では、出現頻度が高くなくても漢字で書いた方が分かりやすい字の例として、謙遜の「遜」と堆積の「堆」が挙げられています。出現頻度が高く広く使われる代名詞の例としては、誰・俺が並びます。
読み取りの効率性という観点は、交ぜ書きを減らす例と代名詞の例の両方を含んでいます。堆・誰・俺も、同じく現行の本表に載っています。分かりやすさのための字と、広く使われる代名詞の字が、同じ観点の下に並ぶのが答申の書き方です。
それ以外の追加理由の一例として、社会生活上必要と判断された字があります。ぶんかるは、訃報の「訃」(出現頻度3497位)や楷書の「楷」(同4375位)のように、出現は多くなくても加えられた字を挙げています。
本や新聞ではあまり出なくても必要な字、という答申の観点④と重なります。訃・楷もまた現行の本表にあり、順位だけを見れば高くない字が名簿に入った、という事実が残ります。
名簿はよく出る字だけでできているわけではない、という観察が、交ぜ書きの例と社会生活上の例の両方から浮かびます。
次の章では、この表が制限の名簿なのか目安なのか、という立ち位置を見ていきます。
参考:文化庁広報誌ぶんかる「常用漢字表は,どのように決められたか。」/文化審議会「改定常用漢字表」答申/文化庁「常用漢字表」PDF
前の章:都道府県の字は例外で名簿に入った
次の章:常用漢字は禁止の名簿ではない