ノートがきれいな人ほど落ちやすい 第5章
前の章の終わりで触れたとおり、解ける問題ばかり選ぶと点数は上がりやすいものです。では、なぜあえて模試の点を上げない週をつくるのでしょうか。それは、上がり続ける点数に安心していると、苦手な所に手が届きにくくなるからです。
模試や問題集の点数は、勉強の進みを教えてくれます。点が上がれば、努力が報われた気がします。仕事の合間に勉強する社会人にとって、その安心は大切です。ただ、点数を追うほど、すでに解ける問題へ寄りやすくなります。解けない問題は時間がかかり、点も下がりやすいからです。きれいな進捗表を保ちたい気持ちが、穴を探す時間を削ってしまうのです。
ここで考えてみたいのが、問題の並べ方です。同じ分野の問題だけをまとめて解くやり方と、違う分野の問題を混ぜて解くやり方があります。後者は交互に混ぜて練習する方法で、学習法を広く見直した論文では中程度の効果があると評価されています。第2章で見たマーカーや要約の「効果が低い」、第3章や第4章で見た分散学習や練習テストの「効果が高い」と比べると、その位置は真ん中です。効果がないわけではありません。ただ、点を伸ばす感覚より、種類の違う問題を見分けて切り替える力が育ちやすいと考えられています。
交互に混ぜて解くと、その場の点数は伸びにくいことがあります。同じ分野を続けて解くほうが、手ごたえは大きくなりやすいからです。けれど本番では、どの分野が出るかはあらかじめわかりません。混ぜて練習しておく週は、点より切り替えの準備に使う週だと考えるとわかりやすいでしょう。
では、点を上げない週をどう置けばよいのでしょうか。ここでは、社会人でも試しやすいやり方を三つ挙げます。
一つめは、苦手な分野だけに絞る週をつくることです。前回の模試で落とした分野を書き出し、その週はそこだけ解きます。全体の点数は下がるかもしれません。それでも、落ちた所がどこなのかははっきりします。安心できる点数より、穴の地図を優先する週です。
二つめは、一日のなかで問題の種類を混ぜることです。午前に法規、午後に計算、と分野ごとに固めるのではなく、短いセットのなかで分野を入れ替えます。頭の切り替えは重いですが、本番でも分野は混ざって出ます。その重さに慣れておくことが、交互練習の狙いです。
三つめは、模試の一点一点を追わないと決めることです。毎週の点数を伸ばすことより、解けなかった問題の種類を記録することに時間を使います。点が横ばいでも、苦手のリストが厚くなれば、その週の役割は果たしています。点が下がった週を失敗とみなさないことが、このやり方の前提です。
点を上げない週は、進捗が止まったように見えることがあります。ノートがきれいな人ほど落ちやすい、という書名が指すのも、整った進捗に安心しすぎる危うさです。点数というきれいな指標を一度手放すと、本番前に埋めるべき穴が見えてきます。
穴が見えたら、次に大切なのは広げることではなく閉じることです。次の章では、試験前いちばん効くのは新しい範囲を開かないことを考えます。
参考:Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58. DOI: https://doi.org/10.1177/1529100612453266
前の章:解説を読んだ直後がいちばん危ない