合格ラインは試験のあとで動くことがある

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資格試験の問題はだれが作っているのか 第4章

第3章の終わりで、IPAの総括部会が合格候補者の確定も受け持つことに触れました。合格ラインといえば、試験の前から決まっている数字だと考える人が多いでしょう。ところが公開資料を読むと、試験が終わったあとに線が動く仕組みを持つ試験があります。この章では、情報処理推進機構(IPA)の試験と医師国家試験を例に、その仕組みを確かめます。

まずIPAです。試験要綱のVer.5.6は2026年7月6日に掲載され、2026年10月の試験から適用されると表紙に書かれています。この要綱は、試験区分ごとの配点と基準点を表で示しています。

応用情報技術者試験では、科目Aと科目Bがともに100点満点で、基準点はそれぞれ60点です。高度試験と情報処理安全確保支援士試験も、点数で採点する科目の基準点は60点です。論述式の科目B-2だけは点数ではなく、評価ランクがAであることが合格の条件になっています。

同じ要綱には、試験結果に問題の難易差が認められた場合、応用情報技術者試験と高度試験、支援士試験では基準点を変更することがある、という規定があります。令和8年度前期の特別措置試験の案内書にも、同じ趣旨の記載があります。

60点は原則の線で、結果を見たあとで動かす余地が規定に残されているわけです。ただし、この規定の対象は今挙げた試験区分に限られています。実際にどの回でどれだけ変えたのかは、今回確認した資料には書かれていません。ここでは、変更がありうると明記されている点だけを押さえます。

医師国家試験は、仕組みの組み立てが違います。厚生労働省が令和元年7月の医師国家試験改善検討部会に出した資料「医師国家試験の現況」は、合格基準の考え方を説明しています。必修問題は絶対基準を用い、最低の合格レベルを80%とします。

一方、必修問題を除いた一般問題と臨床実地問題の合計得点は、平均点と標準偏差を用いた相対基準で判定するとされています。平均点も標準偏差も、その回の受験者の得点から求める値です。

数字で見てみます。令和7年3月14日に発表された第119回の合格基準は、必修問題が160点以上/200点でした。必修問題を除いた一般問題と臨床実地問題は221点以上/300点で、禁忌肢問題の選択数は3問以下です。

令和8年3月16日に発表された第120回も、必修問題は160点以上/200点、禁忌肢問題の選択数は3問以下で同じでした。必修問題を除いた部分は、224点以上/300点でした。

必修問題は一般問題を1問1点、臨床実地問題を1問3点として数えるので、160点は200点の80%にあたります。合格発表の資料に載っているのは点数だけですが、80%の側は両回で変わらず、必修以外の線が3点動いたことになります。

混同しやすいので整理しておきます。IPAの基準点は原則が決まっていて、難易差があるときに変更がありうるという規定です。医師国家試験の必修以外は、もともと毎回の結果から線を引く方式です。同じ「試験のあとで動く」でも、例外としての変更と、方式そのものの性質とでは意味が違います。

受験に生かすなら、自己採点の物差しを非公式の予想点ではなく、その回の公式な合格基準に置くことです。医師国家試験では、厚生労働省が合格発表の資料に合格基準を載せています。IPAの試験なら、受ける前に試験要綱か案内書で配点と基準点、変更の規定を読んでおきます。前の回の数字を今回の線だと思い込まないようにしましょう。

同じ「医師国家試験の現況」には、試験の実施結果を踏まえて、医道審議会の部会で問題の妥当性を検討していることも書かれています。次の章では、正答と採点除外が公表される仕組みを見ていきます。

参考:情報処理推進機構「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 試験要綱 Ver.5.6」/情報処理推進機構「令和8年度前期試験案内書(特別措置試験)」/厚生労働省「医師国家試験の現況」(第1回医師国家試験改善検討部会資料)/厚生労働省「第119回医師国家試験の合格発表」/厚生労働省「第120回医師国家試験の合格発表」

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