第1章では、試験委員の名簿は見えても一問の作者は見えない、という謎に行き当たりました。この章では見方を変えて、一問が仕上がるまでにどんな段階を通るのかを追います。手がかりは、情報処理推進機構(IPA)が組織紹介ページで示している部会の役割です。
IPAの説明で順序がはっきり読み取れるのは、作成部会と選定部会の関係です。選定部会が扱うのは、作成部会が作った問題だと書かれています。作られた問題がそのまま試験に載るのではなく、いったん選定に回るわけです。試験問題を確定するのは、総括部会の役割とされています。
選定部会は、技術動向を踏まえて分野や難易度の釣り合いを考え、出題する問題を選びます。選ぶときの物差しが、一問の出来だけでなく試験全体の配分にも置かれていることがわかります。ただし、難易度をどんな手順で見積もるのかは公表されていません。選ばれなかった問題がどう扱われるのかも、ページには書かれていません。
チェック部会は、問題を論理と形式の面から点検します。公式の説明はこの一文にとどまり、何をどこまで確かめるのかの細目は示されていません。点検が選定の前か後か、何回行われるのかも、ページからは読み取れません。
作成の段階については、IPA自身が少しだけ内側を見せています。2024年10月30日に公開された座談会では、エンベデッドシステムスペシャリスト試験の問題作成に関わった試験委員6名が、記述式問題の作り方を語っています。試験委員は担当する試験区分を公表できないため、参加者は出題した問題にちなんだ動物の呼び名で登場しています。
座談会で語られているのは、まず題材になるシステムを自分たちで設計してみるという作り方です。わからない技術はインターネットや論文、文献で調べ、委員同士で議論を重ねます。会議を何回目までに仕様を固めるという目標を立てても、計画どおりには進みにくいそうです。
そうして練り上げた仕様を、問題冊子の限られたページと、2時間ほどの試験時間で解ける形にまとめていきます。最初から「これを問題にしよう」と決めて作ると、知識を問うだけの問題になりがちだ、という話も出てきます。
医師国家試験はどうでしょうか。厚生労働省の医師国家試験改善検討部会が令和2年11月にまとめた報告書によると、問題冊子は平成13年(第95回)の試験から回収されていました。問題をためて再び使う「プール制」を目指したものです。
しかし平成19年(第101回)以降は、情報公開に関する審査会の答申を受けて、問題冊子の持ち帰りが認められました。そのためプール制への移行は事実上難しくなり、試験委員会が毎年作る新しい問題が、今も出題の中心だとされています。同じ報告書の資料には、平成13年から問題の公募が行われていることも示されています。
一方で、今回確認した厚生労働省の公開資料には、IPAのように作成と選定、点検を受け持つ部会を並べた説明は見当たりませんでした。同じ細かさの流れが公表されていない以上、推測で補うことはしません。
受験に生かすなら、「今年は難問が急に増えた」という噂を聞いたときに、選定とチェックの役割を思い出すことです。出題する問題は分野と難易度の釣り合いを見て選ばれ、論理と形式の点検も受けると説明されています。受ける試験の公式サイトで、委員会や部会の役割を説明したページを探してみてください。
ところで、総括部会の役割には、試験問題の確定に加えて合格候補者の確定も含まれています。次の章では、合格ラインが試験のあとで動くことがある仕組みを見ていきます。
参考:情報処理推進機構「組織紹介:情報処理技術者試験委員会・情報処理安全確保支援士試験委員会」/情報処理推進機構「エンベデッドシステムスペシャリスト試験の問題作成委員による座談会」/厚生労働省「医師国家試験改善検討部会 報告書」
前の章:出題基準は試験より先に出ている