資格試験の問題を解いていると、ふと気になることがあります。この一問はいったいだれが考えたのか、という疑問です。あの分野の先生が書いたらしい、といった噂を耳にすることもあるかもしれません。けれども、そうした噂を確かめる手段は、ふつう受験生の手元にはありません。
この本では、試験を実施する機関や所管の省庁が公開している資料だけを手がかりに、この謎をたどっていきます。
まず意外かもしれないのは、作り手の名前がすでに公開されている試験があることです。厚生労働省は、第121回医師国家試験の試験委員名簿をPDFで公開しています。名簿の日付は令和8年8月1日です。委員長と副委員長に続いて、委員の氏名が五十音順に並んでいます。少なくとも顔ぶれの単位では、作り手は見える場所に出ているわけです。
情報処理技術者試験と情報処理安全確保支援士試験でも、事情は似ています。情報処理推進機構(IPA)は、試験委員会の組織紹介ページから委員名簿を公開しています。令和8年10月1日現在の名簿では、全試験委員483名のうち462名が公表されています。
公表されていない委員については、委員個人のプライバシーを守るため、自分から公表しない人は対象から外していると説明されています。名簿の公開にも、こうした線引きがあるのです。
では、名簿を見れば一問ごとの作者までわかるのでしょうか。医師国家試験の名簿もIPAの名簿も、氏名が五十音順に並ぶ形です。どの委員がどの問題を担当したかは書かれていません。名簿は見えるのに、一問の作者は見えない。ここに、この本の入口となる謎があります。
手がかりは、IPAが示している委員会の構成にあります。2026年10月6日に確認した組織紹介ページ(最終更新日2026年10月1日)では、試験委員会に五つの部会が置かれています。
試験問題の確定や合格候補者の確定、委員会の運営を総理するのが総括部会です。問題そのものを作るのは作成部会です。選定部会は、作成部会が作った問題から、技術動向を踏まえて分野や難易度の釣り合いを考え、出題する問題を選びます。チェック部会は、問題を論理と形式の面から点検します。
このほかに身体障害者対策部会があり、問題の点字化と、解答の墨字化を受け持っています。
この説明から読み取れるのは、作ることと選ぶこと、点検することが別の部会に分かれているという点です。そうであれば、完成した一問に一人の作者名を付けるのは、もともと難しいとも考えられます。名簿に担当が書かれていない理由は公式には説明されていません。ただ、複数の段階を通る作り方を知っておくと、見えないことの意味を落ち着いて考えられます。
受験に生かすなら、「だれが書いたか」という噂を追うより、公式の名簿と委員会の役割の説明を先に読むことです。受ける試験の公式サイトで、試験委員や委員会について書かれたページを探してみてください。
IPAのように、委員の内訳を勤務先の分類別や、業務別・専門分野別の人数で示している例もあります。部会の説明があれば、問題が作成から点検までどんな段階を通るのかも見えてきます。
ただし、作り手は白紙から自由に問題を書いているわけではありません。次の章では、試験委員が出題の拠り所にする出題基準やシラバスが、試験より先に公開されていることを見ていきます。
参考:厚生労働省「第121回医師国家試験 試験委員名簿」/情報処理推進機構「組織紹介:情報処理技術者試験委員会・情報処理安全確保支援士試験委員会」/情報処理推進機構「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 委員名簿」
次の章:出題基準は試験より先に出ている