碍は見送られ藤は名簿に入った

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常用漢字から消えた五文字 第6章

第5章では、常用漢字表が目安であることと、公用文では内閣訓令でその表によることの対比を見ました。最終章では、同じ平成22年の改定でも字ごとの扱いが違う例として、碍と藤を見ていきます。

名簿に入った字と入らなかった字の両方が、同じ改定の公的資料に残っています。字数の増減は第1章、消えた5字は第2章で見たとおりです。

文部科学省の「文化審議会答申『改定常用漢字表』について」は、「碍(がい)」について注記しています。障がい者制度改革推進本部の検討結果を踏まえ、必要があれば改めて検討する、と注記されています。

今回の追加からは見送られた、という書き方です。追加196字の一覧の外に置かれた注記であり、改定の時点では名簿に入らなかった、という事実がここに示されています。

現行の常用漢字表の本表を照合すると、碍は掲げられていません。見送られたままである、という事実の照合にとどめます。改定の時点で追加から外されたことだけを、資料の注記に沿って確認します。

一方の藤は、別の経緯で名簿に入りました。文化庁広報誌ぶんかるによれば、漢字出現頻度数調査での出現頻度は264位で、当時の表外漢字では首位と高い数字でした。それでも平成22年に改定されるまでは常用漢字の名簿の外にありました。

当用漢字表(昭和21年)や常用漢字表(昭和56年)にも入れられなかった、とぶんかるは書いています。

出現文字列頻度数調査を見ると、藤田・藤原・藤井・加藤・伊藤・藤沢といった人名や地名など、固有名詞の一部としての用例が大半だった、と続きます。固有名詞中心では対象にならない、という選定の立て方が長く表外だった理由として示されています。

頻度が高くても名簿に入れない判断が、藤には長く働いていた、という整理です。

しかし文字列調査を詳しく見ると「葛藤」が繰り返し相当の回数で現れ、「藤色」も複数見られた、とぶんかるは書いています。出現が非常に多いことと、一般の用語に使われる例が少なくないことから、漢字小委員会は藤を常用漢字表に入れた、というのが説明です。

現行の本表には藤があり、音訓の例として葛藤や藤色が並びます。頻度の高さと一般用語の例の両方が、追加の根拠として並んでいます。

審議の量も、ぶんかるに数字が残っています。漢字小委員会は45回(うち懇談会3回)、ワーキンググループは49回で、合わせて約290時間に上った、とあります。

頻度の調査と文字列の調査、審議の時間を経たうえで、字ごとの判断が分かれた、という並びです。同じ改定のなかで、碍は見送られ藤は追加された、という字ごとの扱いの差があります。

名簿の出入りは、単純な人気投票では決まらない、という観察が、審議の量と字ごとの扱いの差から浮かびます。

字ごとの扱いの差が、名簿の出入りに残っています。

参考:文部科学省「文化審議会答申『改定常用漢字表』について」/文化庁広報誌ぶんかる「常用漢字表は,どのように決められたか。」/文化庁「常用漢字表」PDF

前の章:常用漢字は禁止の名簿ではない

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