オトスミ文庫
5分から15分で読める、一話完結のオリジナル短編小説
エントランスの掃除当番表に、誰も書いていない名前が毎週ひとつずつ増えていく。新任の会計係は、洗剤の領収書と表を見くらべて首をひねった。
築古マンションの固定電話に、前の住人宛の留守電が毎週木曜に入る。理由は見つかったのに、時刻だけが合わない。
配達員のミナトは、眠れない女の枕もとで、受け取り手のいない夢を抱えて立ちつくす。規則では、夜明け前に返すはずの包みだった。
終点で毎晩ひとり眠り続ける乗客を、駅員の三浦は起こして降ろしている。ある夜、その客が降りたくない理由を口にした。
市役所の三番目の窓口に、老人が風変わりな証明書を申請しにきた。「わたしがここにいたことの証明書をください」。
創業六十年の豆腐屋を、三代目の健太は今月で閉めるつもりでいる。いつも一番に来る常連の老女に、どう切りだせばいいのか。
認知症の祖父は、孫の私を知らない女性の名前で呼ぶ。その名前をたどった先で、私は祖父の若い日の、ひとつの約束を知った。
十五年ぶりの同窓会を引き受けた幹事の美和は、返信のなかった同級生の名前を、ひとりずつ思い出していく。
引っ越し屋のアルバイト歴六年の俺が見てきた、荷物の中身と人の暮らし。今日の依頼人は、少し変わったおばあさんだった。
町でただひとつの映画館が、今日で閉館する。映写技師の老人と、最後の客になった少女のあいだに、言葉はほとんどなかった。