オトスミ文庫
傘は電車に忘れるのに傘立てには忘れない。理由を三つ考えて、三つ目で自分の仮説が崩れた。
退職届を出した翌週、私は死神の採用面接に来ていた。面接官は履歴書を裏まで確かめてから、机の端に揃えた。
三日降り続いた雨で川は止まり、飛脚の甚吉は宿場で足止めになった。急ぎの書状を抱えた彼は、宿の番頭に心付けを握らせて頼みごとをする。
来週の月曜から七階へ移る私は、金曜の夜に引き継ぎ書を書いている。後任の北村さんに渡す業務は十一項目で、十二項目目だけまだ書けていない。
月曜の朝、共用冷蔵庫から名前つきのプリンが消えた。総務の矢作さんが犯人探しを始めたが、金曜の夜に残っていた私は何も知らない顔で席に座っている。
火星の居住区で、私は夏休みの自由研究に「地球の海の音」を選んだ。聞いて回った相手は五人で、答えは一つも重ならなかった。
引っ越し前日の空き部屋で、後輩の僕は先輩に告白した。手順書を読み上げる形になり、先輩は段ボールにもたれて肩を揺らし続けた。
共用廊下に物を置いてはならない。置かれた物は管理組合が保管する。条文どおりに動いた書記が、総会の出席者まで預かることになった。
一年のうちに自動改札で止められた回数を、場面を頼りに数えてみた。答えは七回で、今朝がその七回目だった。
冬ごもりに集めた石を、数えるたびに一つ足りないかわうそ。夜のあいだに、石がひとつ川へ帰っていたのです。