白い会議室に長机が一つあって、向かいには黒いスーツの面接官が座っている。名札には「主任」とだけある。私は前の会社の癖で名刺を出しかけ、渡す相手が人間でないことに気づいて手を引っこめた。
「では、志望動機からお願いします」
「はい。前職では営業事務を十一年やっておりました。毎日お客様のご都合に合わせる仕事でしたが、次はご都合のつかない方のお役に立ちたいと考えました」
「ご都合のつかない方」
「はい。お世話になっております、から始まる関係を築きたいです」
「うちの担当の方は、挨拶しても返事をくれませんよ」
「返事がなくても、三回は送ります」
「送らなくていいです」
「長所を教えてください」
「確認を怠らないところです。メールは送信前に必ず三回読みます」
「短所は」
「持ち帰って検討します、と言ってしまうところです」
「持ち帰る先が、うちにはないんですよ」
「では、その場で検討します」
「そうしてください」
*
主任は履歴書に何か書きこんだ。字が細かくて、私の席からは読めない。
「担当件数ですが、一日四十件前後です。移動を含めて一件七分」
「四十件に七分ですか。引き継ぎの時間は」
「引き継ぎは書類一枚です。先方への説明はありません」
「書類は得意です。前の会社では、会議のたびに議事録を取っていました」
「取らなくていいです」
「取らないと落ち着かなくて」
「では、取って、出さないでください」
「それだと、取る意味が」
「ないですね」
「上司への報告は、どのくらいの頻度ですか。前職では一時間おきに入れていました」
「こちらの上司は私です。報告は結構です。連絡も結構です」
「相談は」
「相談は、私がしたいくらいで。特技はありますか」
「定時の五分前から、帰る準備をする早さです」
「それは、定時に帰れる人の特技です」
「前の会社では、準備だけで終わっていました」
「ここでも、そうなる気がします。勤務は夜が中心で、残業もあります」
「残業代はつきますか」
「つきません」
「慣れています」
「慣れないでください」
主任は初めて顔を上げた。目の下に濃いくまがある。
「御社の一日の流れも伺えますか」
「夕方に出勤して、朝まで担当先を回ります。休憩は、移動の途中で各自」
「各自、ですか」
「全員が回っているので、休憩室に誰もいません。最後に、何かご質問はありますか」
「では一つ。前任の方々は、どうして辞められたのでしょう」
「辞めてはいません。有給の消化に入ったまま、三人とも戻ってこないだけで」
「それは、辞めたのと」
「違います。書類の上では在籍中です」
主任は私の履歴書を、もう一度裏返した。
「あの、このあとご予定は。靴はそのままで構いません。四十件のうち、まずは半分だけでも」
