造幣局で作ってもまだお金ではない 第3章
第2章では、お札と硬貨で発行の瞬間が違うことを並べました。では、すでに発行された現金は、いまどのくらいの総額になっているのでしょうか。
日本銀行が毎月公表するマネタリーベースから、流通している現金の大きさを、発行高と流通高の側から見ていきます。章題の約百十九兆円は、お札と硬貨を足したその合計を指しています。数字の出典は、日本銀行が示す2026年9月の平均残高に置いて読みます。第1章で見た製造と発行の先に、この総額があります。
2026年9月の平均残高では、日本銀行券発行高は1,146,005億円、およそ114.6兆円です。貨幣流通高は45,781億円、およそ4.58兆円です。日本銀行のマネタリーベースの解説では、銀行券と貨幣のこの二つを足したものを流通現金と呼びます。
両者を足した流通現金の総額は、およそ119.2兆円になります。章題の約百十九兆円は、この流通現金の大きさに対応しています。
金額のうえではお札の発行高が大半を占め、硬貨の流通高はそれに続く形です。硬貨にあたる貨幣流通高は、流通現金全体のおよそ4%弱です。約4.58兆円という数字だけを見ると大きく感じますが、約114.6兆円のお札の発行高の前では小さく見えます。
巨大に見える硬貨の山も、お札の総額の前ではその割合が限られます。日常の現金の見た目では硬貨も目立ちますが、金額の構成ではお札が圧倒的な位置を占めます。
ただしこの数字は、個人の財布の中身を足し合わせたものではありません。日本銀行のマネタリーベースの解説では、流通現金を日本銀行券発行高と貨幣流通高の合計とし、市中に出回っているお金だと位置づけています。
同じ解説は、マネタリーベース上の流通現金はマネーストックの現金通貨とは違い、金融機関が持つ分も入る、と注記しています。発行高・流通高という統計上の残高であり、家計の財布の合計そのものではない、という位置づけです。見た目の現金総額と、手元の合計は、ここでは一致しません。
財布の外にある、と章題が言うのは、手元の現金ではなく統計上の流通残高を指しているからです。金融機関が保有する分も、この流通現金の数字には入ります。発行の手続きを経た現金が、いまどれだけあるかを示すための統計です。
第2章で見た発行の瞬間の先に、この総額があります。数字の大きさと、それが何を数えているかの定義は、つねにセットで読む必要があります。
マネタリーベース全体には、流通現金のほかに日銀当座預金も含まれます。その内訳や比率の大きさについてはあとの章に回します。この章で押さえるのは、流通現金およそ119.2兆円という枠と、個人の財布の合計ではないという定義までです。
約百十九兆円は、財布の外にある統計として読む数字なのです。発行高と流通高の合計こそが、章題の指す現金の姿になっています。
次の章では、通常貨幣の素材と量目を見ていきます。
参考:日本銀行「マネタリーベース(2026年9月)」/日本銀行「マネタリーベースの解説」
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