造幣局で作ってもまだお金ではない 第2章
第1章では、貨幣は造幣局で造っても交付まで通貨ではない、というずれをはじめに確かめました。同じ現金でも、お札と硬貨では発行の瞬間そのものが異なります。
日常ではお札と硬貨と呼びますが、公式には日本銀行券と貨幣という二系統に分かれます。見た目はどちらも同じお金なのに、発行の定義だけでも二系統です。この章では、そのずれた位置を並べて一つずつ確かめていきます。
造幣局の貨幣Q&Aによると、法律上の貨幣が一般にいう硬貨にあたり、日本銀行が発行する銀行券が一般にいう紙幣にあたります。章題のお札と硬貨は、この二系統を日常の呼び方ではっきり指しています。
用語が分かれていても指すものは同じ現金の姿です。発行の主体と、発行とされる瞬間は、ここから別々に見えてきます。呼び方のずれが、制度の分かれ目を隠してしまうことがあるのです。
貨幣の側では政府が発行します。造幣局が製造したあと、政府が日本銀行へ交付したその時点が発行です。日本銀行の概要ページも、造幣局で造ったあと日銀へ渡された時点で貨幣の発行になる、と書いています。
第1章で押さえた交付の瞬間が、ここでも発行の定義そのものです。造る場と発行の主体は、貨幣では分かれたまま並んでいる構造です。
銀行券の側では日本銀行が発行します。国立印刷局が製造し、日本銀行が製造費用を支払ったうえで引き取ります。取引先金融機関が日銀の当座から資金を引き、銀行券を受け取ると市中へ出され、その受け取りの時点で銀行券の発行が成立します。
日本銀行は、銀行券は国立印刷局の製品であり、日本銀行法により発行の権能を持つ、と説明しています。日銀が引き取っただけでは、発行されたことにはなりません。
ここに、もう一つのずれがあります。貨幣も銀行券と同じく、取引先金融機関が日銀当座から引き出す経路を通って市中へ出ます。ただし貨幣では、その送り出しは発行の瞬間ではありません。
交付で発行済みのあと、市中へ出る段が別に続く、という形です。発行の定義と市中への送り出しは、同じ語のようで別の段であり、銀行券では受け取りが発行そのものなのでその差がはっきり出ます。
お札は受け取りの瞬間に発行され、硬貨は交付の瞬間に発行されます。製造の場も、国立印刷局と造幣局で分かれています。同じ現金に見えるものが、制度のうえでは二系統の手続きで動いています。
発行の瞬間が違う、という章題の中身は、この並びそのものにあります。財布に入る前の手続きが、すでに別の道を通っている、というわけです。
次の章では、現金の総額を数字で確かめていきます。
参考:日本銀行「銀行券・貨幣の発行・管理の概要」/日本銀行「お札はどこでつくられているのですか?」/造幣局「貨幣Q&A」
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