丁寧なメールほど読まれない 第5章
メールの書き出しに「大変申し訳ございません」と打ち込んだあと、さらに「重ねてお詫び申し上げます」と続けてしまう。そんな文面を書いた覚えのある人は少なくないと思います。謝っておけば角は立たない。少なくとも失礼にはならない。そう感じるのは自然なことです。けれども謝罪の言葉は、重ねるほど一つひとつの重さが軽くなっていきます。
よくある場面を思い浮かべてみます。相手から届いた資料に数字の食い違いがあり、それを指摘するメールを書く。ところが冒頭は「お手数をおかけして申し訳ございません」で始まり、途中にも「こちらの確認不足かもしれず恐縮ですが」と入り、最後は「何度も申し訳ございません」で締めくくられる。読んだ相手は、自分の知らないところで何か迷惑をかけられたのだろうかと首をかしげます。
ここで起きているのは、責任の所在のずれです。自分に非のない場面で謝ると、読み手は問題がどちらの側にあるのかを判断しにくくなります。本来なら相手が直すべき食い違いなのに、こちらが引き取ったように見えてしまう。相手はどこまで対応すればよいのかが分からず、修正が後回しになることもあります。謝罪は気遣いのつもりでも、仕事の線引きをぼかす言葉にもなるのです。
もう一つの問題は、本当に謝るべきときに表れます。普段からどのメールにも「申し訳ございません」が並んでいると、自分の側に明らかな落ち度があったときの謝罪が、いつもの挨拶と区別されません。そこで言葉の数を増やしても、重みは戻ってきません。むしろ長いお詫びの文章は、肝心の事情や今後の対応を探しにくくします。
ここで分けて考えたいのが、礼儀としての言い回しと本当の謝罪です。「お忙しいところ恐れ入ります」や「お手数ですが」は、相手の時間を使わせることへの配慮を示すクッションの言葉です。これらは謝罪ではないので、使っても責任の所在は動きません。一方で「申し訳ございません」は、自分の側に非があることを認める言葉です。両者を混ぜて使うと、読み手は配慮と謝罪の境目を見失います。
では、謝るべき場面ではどう書けばよいのでしょうか。基本は三つをひと組にすることです。まず一度だけ、はっきり謝る。次に、何が起きたのかを事実として短く書く。そして、これからどう対応するのかを伝える。たとえば「先日お送りした見積書に誤りがありました。申し訳ございません。単価の欄に以前の価格を記載していました。本日中に訂正版をお送りします。」という形です。謝罪の言葉は一つでも、事実と次の一手が並んでいれば誠意は十分に伝わります。
反対に、自分に非がない場面では謝罪の言葉を外してみます。「資料の三ページ目の合計が表と一致していないようです。ご確認いただけますでしょうか。」と書いても、失礼にはなりません。配慮を示したければ、「恐れ入りますが」を一つ添えれば足ります。
謝る回数を減らすことは、ぶっきらぼうになることではありません。謝罪を本当に必要な場面のためにとっておくことです。一度の謝罪に事実と次の対応が添えられていれば、相手はこの人の言葉は信じてよいと受け取ります。その信用は、次に何かが起きたときにも静かに効いてきます。
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