丁寧なメールほど読まれない 第3章
「念のためお伝えします」と一文を足したあと、送信ボタンの前で少し迷った経験はないでしょうか。書き手としては保険をかけたつもりです。けれども読み手の画面では、その一文がもう一つの論点になって、返事の焦点がぼやけることがあります。足すほど丁寧になった気がするのに、話はかえってこじれていく。その仕組みをほどいてみます。
人が「念のため」や「ついでに」「参考までに」を足したくなる理由は、たいてい善意です。大事なことを落としたくない。相手の手間を先回りで減らしたい。あとで「聞いていませんでした」と言われたくない。そうした気持ちが、本題のまわりに小さな注釈をくっつけていきます。念押しも同じです。念を押しておけば伝わったはずだという安心が、一文ずつ本文を太らせていきます。
問題は、書き手にとっての小さな注釈が、読み手にとっては別の宿題になることです。本題の依頼を一つ追えばよかった受信箱に、確認事項がもう一つ増え、ついでに資料のリンクが付き、参考までに別件の予定も書かれる。追うものが増えるほど、どれが本筋なのかが見えにくくなります。読み手は一通を読むのではなく、複数の話題を同時に整理させられているのです。
よくある場面では、一通のメールの中に三つの話題が並びます。会議の日程確認。資料の誤字の指摘。来月の懇親会の出欠。書き手は一つの連絡のつもりでも、読み手は三つ分の返事を組み立てなければなりません。どれから返すべきか迷い、一部分だけ返して、残りの話題は次の往復に持ち越される。未返信の枝が残ると、次のメールではその枝の説明が増え、やりとりはさらに長くなります。話がこじれるというより、最初から論点が枝分かれしているのです。
ここで使える考え方は単純です。一通のメールには、いちばん大事な頼みごとを一つだけ置く。副次的な確認や参考情報は、本題が片付いてから別のメールにするか、本題への返事が返ってきてから改めて書く。順番を分けるだけで、相手が追う線は一本になります。急ぎの別件があるなら、件名も本文も分けたほうが、どちらも早く片づくことが多いのです。一つの箱に荷物を詰め込むより、届ける順番を決めたほうが届きやすいのと同じです。
では、「念のため」はいつも邪魔なのでしょうか。そうとは限りません。期限の再確認や、すでに合意した一点の念押しのように、本題と同じ線上にある短い補足は、むしろ迷子を防ぎます。まずいのは、別の線を引き始める補足です。本題と関係の薄い「ついでに」や、返事を要するかどうかわからない「参考までに」は、読み手の頭の中に新しい枝を作ります。足す前に、この一文への返事は要るのかどうかを自分に聞いてみると、線の引き方がだいぶはっきりします。
足すたびに丁寧になった気がするのは、書き手側の感覚です。読み手側では、足すたびに判断の対象が増えていきます。送信前に本文を読み返して、この一文は本題を助けるのか、それとも別の話を始めているのか。その問いだけでも、こじれはかなり減らせます。念のためを減らすことは、相手への気遣いを減らすことではありません。論点を一つにそろえることが、いちばんの気遣いになる場面は少なくありません。
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