造幣局で作ってもまだお金ではない 第1章
造幣局で貨幣を作っても、その時点ではまだ通貨ではありません。造幣局の貨幣Q&Aによると、造幣局の施設内にあるあいだは見た目が貨幣でも通貨にはなっていません。
日本銀行へ納入された時点で初めて発行され、通貨になると整理しています。形も模様も整っているのに、手続きの途中では通貨ではない、というずれがここにはあります。日常で手にする硬貨の手前に、製造と発行という二つの段があるのです。
見た目が整っていることと、通貨として通用することとは別の段です。書名が指すのはこのずれです。製造の場にあるあいだはまだお金ではないという事実から入ります。
作られたあと、どこでお金になるのかを確かめるのが、この章の役割です。製造と発行のずれは、ここから見えてきます。
造幣局は貨幣の製造を行い、政府が貨幣を発行します。製造と発行は同じ行為ではありません。造る場所と発行する主体が分かれている、という二段の構造があります。
いわゆる通貨法の第4条は、その骨格を三つの項に分けて書いています。製造の事務と発行の手続きが、条文のうえで並んでいる形です。
第1項は、貨幣をつくり発行する権能は政府に属する、と定めます。権能の語は条文の表現です。第2項は、財務大臣が貨幣の製造事務を造幣局に行わせる、としています。
造幣局は製造の事務を担う立場であり、発行そのものを行う主体ではありません。第3項は、発行の手続きとして、財務大臣が定める方法で、製造済みの貨幣を日本銀行へ渡すことだと定めます。
つまり交付が発行の瞬間です。造幣局で造られた貨幣は、財務省経由で日本銀行へ納入されます。造幣局のQ&Aも、政府が日本銀行へ貨幣を交付したことで発行になる、と書いています。
造る段と、お金として通用する段とは、ここではっきり分かれます。工場を出ただけでは足りず、政府から日本銀行への交付まで進んで初めて発行です。
製造枚数の決め方や市中への払い出しの細部は、この章では扱いません。押さえるのは、見た目が整っても手続きのどこかまで通貨になっていないという二段の構造までです。
作ることと通貨になることは別の段なのです。書名の核は、この分離にあります。見た目の完成と通貨としての成立は、同じ瞬間ではないのです。
なお紙幣は貨幣とは異なります。正式には日本銀行券といい、国立印刷局が製造し日本銀行が発行します。発行の瞬間も、貨幣の交付とは違う位置にあります。
取引先金融機関が日銀当座預金を引き出して受け取った時点、という整理もあります。その違いの中身は次の章に回します。
次の章では、発行のタイミングが二系統でどう分かれるかを見ていきます。
参考:造幣局「貨幣Q&A」/e-Gov「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第4条
次の章:お札と硬貨では発行の瞬間が違う