家計簿を三日でやめた、という話は珍しくありません。たとえば、アプリを入れてカテゴリーを細かく分けたものの、数日で入力が追いつかなくなる。「今日は忙しいから後で」が続き、いつの間にか開かなくなる。そんな流れはよく耳にします。
書名の「三日でやめた人」は、意志の弱い特別な人のことではありません。全部を完璧につけようとしたときに起きやすい、よくある失敗の形です。
止まった原因を「自分の根性がない」と片づけると、次も同じやり方を選びがちです。もっと詳しい道具、もっと細かい項目、もっと毎日の入力。やり方が重いほど、続けるのは難しくなりやすいと考えられます。やめたことそのものより、続ける前提に合わない設計のほうに原因があるのかもしれません。
家計の規模を、数字で一度見てみます。総務省統計局の家計調査によると、2024年の二人以上の世帯の消費支出は、1世帯当たり1か月平均300,243円でした。毎日の細かい買い物だけでなく、食料や光熱・水道、交通・通信といった費目が積み上がった金額です。
月におよそ30万円の流れを、レシート一枚ずつ完全に追おうとすると、作業量はかなりのものになります。単純に12倍すると、1年でおよそ360万円です。この流れを毎日の入力で漏れなく拾うのは、仕事や暮らしの合間には重い作業でしょう。続けることと、全部つけることは、別の目標と考えたほうが現実的です。
失敗の形ははっきりしています。記録の完全さを目的にしてしまうことです。全部つけられた日は成功、抜けた日は失敗という採点だと、一度抜けた時点で投げ出したくなります。途中に空白がある記録でも、大きな流れがわかれば役に立ちます。
では何を見るか。最初から全部ではなく、金額が大きい費目を先に決めます。同じ家計調査で二人以上の世帯の1か月平均を見ると、食料は89,936円、交通・通信は41,731円、光熱・水道は23,111円でした。いずれも月に2万円を超える費目です。ここをざっくりつかむだけでも、家計の地図はかなり見えてきます。
1円単位の細かい記録は、あとから足しても遅くありません。最初の一週間は、大きな費目の見出しだけでもかまいません。見る項目も、まずは数個に絞って始めれば十分です。
三日でやめた経験は、捨てなくてかまいません。完璧な家計簿は自分には続かなかった、という一つの手がかりになります。止まってしまった人ほど、再スタートのハードルを下げて、見る場所を絞るところから始めればよいのです。
次の章では、家計を比べるときに起きやすい別の失敗として、平均貯蓄の数字の見方を取り上げます。
参考:総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2024年(令和6年)平均結果の概要」