同窓会の幹事

雨上がりの夜、駅前の居酒屋の入口の暖かい灯りと、濡れた道に映る光。折りたたみ傘を持つ人の後ろ姿。

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同窓会の幹事なんて、引き受けるんじゃなかった。出欠の返信を集計するたびに、美和はため息をついた。卒業して十五年。四十人のクラスのうち「出席」の返事が来たのは二十三人で、「欠席」が十一人。残りの六人は返信がなかった。住所が変わって連絡のつかない人たちだ。そのうちの一人の名前に、美和の目が止まった。

「沢村ゆきな」

*

高校二年のとき、同じ班だった。いつも教室の窓際の席で本を読んでいる、おとなしい子だった。友達は少なくて、美和も、ゆきなと特別に親しかったわけではない。ただ、一度だけ忘れられない出来事がある。冬の日、美和が傘を忘れて昇降口で立ち尽くしていたとき、ゆきなが黙って自分の傘を半分差し出してくれたのだ。

「駅まで、いっしょに行く?」

それだけだった。二人で傘に入り、十分間無言で歩いて、駅で別れるとき、美和は「ありがとう」と小さく言った。ゆきなは「うん」とうなずいただけだった。卒業のあと、ゆきなとは一度も会っていない。

*

美和は、同窓会の案内状をもう一度ゆきなに送ることにした。住所は古いままで、届くかどうかは分からないけれど、手書きの付箋を一枚添えた。

覚えていますか。高校二年の冬、傘を貸してくれた美和です。来月の同窓会、もしよかったら来てください。

当日の会場は、駅前の居酒屋だった。次々に集まってくる元同級生の、少し老けた顔を見ていると、時間が巻きもどされていくようだ。幹事として乾杯の挨拶をして、受付の席に戻り、名簿をもう一度確認したけれど、ゆきなの欄は空白のままだった。

宴会が中盤にさしかかったころ、居酒屋の引き戸が開いた。そこに一人の女性が立っていた。ショートカットの髪に薄いグレーのコートを着て、手には一本の折りたたみ傘を持っている。

「あの。遅れて、すみません」

美和は立ち上がった。声がうまく出なかった。

「ゆきな。来てくれたんだ」

ゆきなは少し照れたように笑った。

「案内状、転送されて、やっと届いたの。傘の話を覚えていてくれて、うれしかった」

二人は並んで席に座った。十五年分の話が、とめどなくあふれた。帰り道、駅まで、また二人で歩いた。今度は傘はいらなかった。

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