朝、目覚まし時計が鳴った。僕は手を伸ばしてアラームを止めた。布団の温かさが体をやわらかく包んでいて、「あと五分」と心の中でつぶやいて目を閉じた。次に目を開けたとき、僕は見知らぬ町の真ん中に立っていた。
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町は一面、ふかふかの毛布のようなもので出来ていた。道も建物も噴水もすべてやわらかく、人々は半分眠ったような顔で、のろのろと歩いている。看板がひとつ立っていた。「あと五分の国へ、ようこそ」。
隣を歩いていた老人に聞いてみた。
「ここは、どこですか」
老人はあくびをしながら答えた。
「あと五分寝たいと思った人が来る国じゃよ。みんなここで、あと五分を集めておる」
「集める?」
「そうじゃ。ほら、あそこで」
老人が指さした先には、大きな倉庫のような建物があって、入口に行列ができていた。みんな袋を手に持って順番を待っている。
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僕も行列に並んでみた。順番が来ると、係員が砂時計を渡してくれて、五分の砂が、さらさらと落ちていく。
「これが、あなたのあと五分です。大切に使ってください」
砂時計を受け取った瞬間、僕は思い出した。今朝は大事な会議があり、遅刻したら大変なことになる。
「あの、どうすれば帰れますか」
係員は笑って言った。
「簡単です。その砂時計の砂が全部落ちる前に、目を覚ませばいいんです」
砂はどんどん減っていく。あと一分、あと三十秒。僕は必死で目を開けようとしたが、体は重く、眠気が全身にからみついていた。
「起きろ」
自分の声が、遠くから聞こえた。
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はっと目が覚めた。時計は七時五分を指していて、目覚ましを止めてから、きっかり五分がたっていた。僕はがばっと跳ね起きた。急げば会議にはまだ間に合う。着替えながら、枕元の目覚まし時計を見ると、針はかち、かちと動いている。僕は声をひそめてささやいた。
「ありがとう。あと五分をくれて」
時計は何も答えなかった。けれど、秒針の動きがほんの少し笑っているように見えた。会議にはぎりぎりで間に合って、その日から僕は、毎朝「あと五分」をとっておくことにした。一日の始まりを、ゆっくり迎えるために。
