エレベーターの十階

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築三十年のマンションに住んで七年になる。九階建てで私の部屋は四階だ。在宅で仕事をしているので、エレベーターに乗るのは昼の買い物と夜の散歩くらいである。最初に気づいたのは十月の初めの夜だった。散歩から帰って一階で乗り込み、四階のボタンを押した。

このエレベーターは古く、扉の内側に昭和の製造銘板が貼ってある。昼のうちは何の変哲もない箱で、乗るたびに少し揺れる程度だ。操作盤のボタンは「9」で終わっている。その上は何もない金属の壁だ。ところが箱が三階を過ぎたころ、その壁に橙色で「10」と浮かんだ。ほんの一拍で消えた。目をこすっている間に四階へ着いた。疲れているのだろうと思って寝た。

翌日も同じ時刻に同じことが起きた。その次の夜も起きた。五日続いたので、さすがに翌朝、管理会社へ電話をかけた。

私はそのまま伝えた。

「夜になるとエレベーターの十階のボタンが光るんです」

女性の担当者は事務的に答えた。

「十階のボタンは付いておりません。この建物は九階までです」

「付いていないものが光るんです」

「付いていないものは光りません」

正論だった。私は礼を言って電話を切った。

同じ階の老夫婦にも聞いてみた。奥さんは首をかしげ、ご主人は急に天気の話を始めた。

私は理屈で考えることにした。映り込みか、点検用のランプか、目の錯覚か。だが操作盤は壁に埋まっていて、光の入る隙間がない。点灯は決まって夜の十一時ごろで、四階の手前だった。毎晩同じ時刻に起きるなら、こちらが合わせればいい。在宅の人間は、こういうときに暇である。

それから三晩、乗る時刻を変えてみた。十時では灯らない。十二時でも灯らない。十一時だけが灯る。誰かが決めた時刻に従っているようで、私はなぜか腹が立った。

九日目の夜、十一時ちょうどに一階から乗り込んだ。四階を押してから、指を開ボタンの上に置いた。箱が上がる。手のひらが汗ばんでいた。二階。三階。階数表示は「3」で止まった。壁の上のほうが橙色に染まり、「10」の文字が浮かんだ。「0」の丸が、少し歪んでいた。私は開ボタンを強く押した。モーターの音が止まり、ドアの合わせ目に光が走った。

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件名:十階の住人です ボタンの取り付けをお願いします

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