させていただくの正しい使い方

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敬語の本 第4章

第3章ではねぎらいの言葉を整理しました。ここではビジネスの場で耳にすることが多い「させていただく」を取り上げます。あまり使わないほうがよいと聞く一方で、実際には会議や案内文でよく見かける言い方です。文化審議会答申「敬語の指針」は、40〜41頁でこの問題を扱っています。

指針によると、「(お・ご)……(さ)せていただく」は、基本的には自分側が行うことについて使う形です。使われるのは「ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い,イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合」だとされています(40頁)。この二つをどの程度満たすかで、適切な場合と、あまり適切とはいえない場合が分かれます。

指針は五つの例を挙げています。相手の本をコピーするために許可を求める「コピーを取らせていただけますか」は、二つの条件を満たしていて、基本的な使い方に合うとされます。

研究発表会の冒頭の「それでは、発表させていただきます」も同じように考えられます。ただ、許可を受けるという条件がない場合はやや冗長で、「発表いたします」のほうが簡潔に感じられるようだとしています。張り紙で休業を知らせる「本日、休業させていただきます」も、条件がなければ「休業いたします」のほうがよいだろうという見方です。

結婚式の祝辞での「同じクラスで勉強させていただいた者です」や、自己紹介での「○○高校を卒業させていただきました」は、二つの条件を満たしていないと感じる場合には不適切とされます。ただし祝辞については、新郎新婦を最大限に立てる場面であることから許容する考え方もあるとしています。卒業についても、先生方の格別な配慮で何とか卒業できたという文脈があれば、必ずしも不適切とはいえないとされます。

さらに指針は、実際には二つの条件がそろっていなくても、そろっているものと見なして使う用法があると指摘しています(41頁)。この見立てが「させていただく」の使われる範囲を広げており、それをどの程度自然と受け入れるかが、人ごとの許容度を決めているという説明です。

形の面では、いわゆる「さ入れ言葉」にも注意が要ります。指針の「(さ)せていただく」という書き方は、動詞によって「せていただく」になる場合と「させていただく」になる場合があることを表していると読めます。

五段動詞の使役は、未然形に「せる」を付けて作ります。「読む」は「読ませる」、「休む」は「休ませる」です。したがって「読ませていただく」「休ませていただく」が本来の形で、ここに余分な「さ」を入れた「読まさせていただく」「休まさせていただく」がさ入れ言葉にあたります。

一段動詞とサ変動詞では、使役はもともと「させる」の形です。「食べる」は「食べさせる」、「する」は「させる」なので、「食べさせていただく」や「発表させていただく」の「さ」は正しい活用の一部です。カ変動詞の「来る」も「来させる」になります。迷ったときは、その動詞の使役形を一度書いてから「ていただく」を付けると確かめられます。

実際に使うときは、まず相手の許可と恩恵の気持ちがあるかを考えます。どちらも見えにくい場面なら、「いたします」などの言い方にすると簡潔になります。使う場合は、五段動詞に余分な「さ」を入れないように気をつけます。

次の章では、おっしゃられるは二重敬語かを取り上げます。

参考:文化審議会答申「敬語の指針」/文化庁「敬語索引」

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