敬語の本 第3章
第2章では、「了解しました」と「承知しました」の返事を整理しました。ここでは職場でよく迷うねぎらいの言葉、「ご苦労様」と「お疲れ様」を取り上げます。どちらも相手をねぎらったり、いたわったりするときに使う言葉で、意味は似ています。違うのは、どこに焦点を当てているかです。
国立国語研究所のことば研究館で、梅林博人氏は次のように分けています。「ご苦労様」は、相手が取り組んだ仕事の大変さを思いやるねぎらいです。「お疲れ様」は、相手の心や体の疲れを思いやるねぎらいです。仕事の中身を見ているか、相手の状態を見ているかが使い分けの軸だという説明です。
職場での使い方は、文化審議会答申「敬語の指針」の45〜46頁と、文化庁の「言葉に迷ったときのヒント」敬語編③が整理しています。「御苦労様」は、配達をしてくれた店員のように、自分の側のために仕事をしてくれた人をねぎらう言葉とされます。ねぎらいは上の立場から下の立場に向けるものなので、目上の人には「御苦労様(でした)」を使わないほうがよいという説明です。
一方の「お疲れ様」は、一緒に仕事をしたあとに互いに声を掛け合う場面でも使われます。「お疲れ様でした」「お疲れ様でございました」のように丁寧に言えば、上司を含めて誰に対しても使えるとされています。
指針は、場面による違いにも触れています。時間外に仕事を教えてくれた上司には、ねぎらいより「ありがとうございました」と感謝を伝えるほうがよいとしています。一緒に書類作りに追われた上司には、「お疲れ様でございました」と気持ちを込めて言えばよいという整理です。
実際の使われ方は、文化庁の令和6年度「国語に関する世論調査」で見られます。調査は令和7年1月から3月に全国の16歳以上を対象に行われ、有効回答は3,498人でした。会社で一緒に仕事をした人に仕事のあとで掛ける言葉として、相手の職階が自分より上の場合は「お疲れ様(でした)」が77.1%、「ありがとう(ございました)」が16.5%、「御苦労様(でした)」が3.5%でした。
相手の職階が下の場合も「お疲れ様(でした)」が71.2%で最も多く、「御苦労様(でした)」は14.9%、「ありがとう(ございました)」は10.8%です。同年配の配達の人に掛ける言葉では、「ありがとう(ございました)」が70.0%、「御苦労様(でした)」が19.7%、「お疲れ様(でした)」が4.5%でした。
ただし、国語研の解説は、目上か目下かだけで決めるルールには限りがあると注意しています。この説明は、職場のやり取りを効率よくするために場面を限って整理した、いわばビジネスルールだという見方です。公務やボランティアに関わった人、退職する人には、目上に対しても「ご苦労様」とねぎらう例があるとしています。
反対に、授業をしてくれた先生や手術をしてくれた医師のように、自分が直接恩恵を受けた相手には、「お疲れ様」ではなくまず「ありがとうございます」と言うとも述べています。
職場で迷ったときは、目上や社外の相手には「お疲れ様でした」か、お礼の言葉を選ぶのが出典に沿った選び方です。そのうえで、相手の仕事の大変さを見ているのか、疲れを見ているのかを考えると、二つの言葉の違いがつかみやすくなります。
次の章では、させていただくの正しい使い方を取り上げます。
参考:国立国語研究所 ことば研究館「『ご苦労様』と『お疲れ様』は結局どう使い分ければよいのでしょうか」/文化庁「言葉に迷ったときのヒント 敬語編③ ねぎらいの言葉」/文化審議会答申「敬語の指針」/文化庁 令和6年度「国語に関する世論調査」の結果
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