敬語の本 第1章
学校で習う敬語は、尊敬語・謙譲語・丁寧語の三分類が多いです。文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年)は、これを五種類に分けて解説しています。尊敬語、謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ(丁重語)、丁寧語、美化語の五つです。
指針の13頁には、五種類と従来の三種類の対応が表で示されています。謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱが従来の謙譲語に、丁寧語と美化語が従来の丁寧語に当たります。そのうえで、三種類でも敬語の仕組みは理解できるが、働きと使い方を深く理解するために五種類に分けて捉え直す、という立場をとっています。
尊敬語について、指針は「相手側又は第三者の行為・ものごと・状態などについて,その人物を立てて述べるもの」と定義しています(14頁)。指針の例では、「先生は来週海外へいらっしゃるんでしたね」の「いらっしゃる」が、行為者である先生を立てます。「部長が資料をお読みになる」も、読む人を立てる尊敬語です。尊敬語は相手側か第三者について使うもので、自分の行為には使いません。
謙譲語Ⅰの定義は「自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて,その向かう先の人物を立てて述べるもの」です(15頁)。「先生のところに伺いたいんですが」では、「行く」の代わりに「伺う」を使って、向かう先の先生を立てます。「お届けする」「御案内する」も謙譲語Ⅰの例として挙げられています。
謙譲語Ⅱ(丁重語)は「自分側の行為・ものごとなどを,話や文章の相手に対して丁重に述べるもの」とされています(18頁)。「明日から海外へ参ります」は、行き先を立てるのではなく、聞き手に対して改まった述べ方をしています。「申す」「いたす」「おる」もこの型です。
二つの謙譲語の違いは、指針19頁の補足で整理されています。謙譲語Ⅰは向かう先に対する敬語、謙譲語Ⅱは話の相手に対する敬語です。そのため「弟のところに伺います」は不自然ですが、「弟のところに参ります」とは言えます。
丁寧語は、聞き手や読み手に向けて丁寧さを添える言い方です(20頁)。「です」「ます」が典型で、さらに丁寧さの度合いが高いものとして「(で)ございます」があります。
美化語は、ものごとそのものをきれいに言う言い方です(21頁)。「お酒」「お料理」のように、行為者や向かう先を立てるのでも、相手に丁寧に述べるのでもありません。指針は、狭い意味の敬語とは性質が違うものの、広い意味では敬語と位置付けられるとしています。
ただし、「お」が付けばすべて美化語というわけではありません。「先生のお名前」の「お名前」は名前の持ち主を立てる尊敬語です。「先生へのお手紙」は向かう先を立てる謙譲語Ⅰ、「先生からのお手紙」は書いた人を立てる尊敬語とされています。
迷ったときは、まず尊敬語か謙譲語か丁寧語かを見ます。謙譲語なら、立てているのが向かう先か、話の相手への丁重さかを分けます。誰の行為か、誰に向かうか、誰に対して丁重かを問えば、五分類の違いが見えてきます。
次の章では、了解しましたと承知しましたの違いを、敬意表現の観点から整理します。
参考:文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)/文化庁「敬語おもしろ相談室」
次の章:了解しましたと承知しましたの違い