春先の日曜、姉の理沙は軍手をはめて物置の戸を引いた。後ろで弟の大輔が、コンビニの袋に入れた缶コーヒーを二本ぶら下げて立っている。奥の棚には、折りたたんだ紙袋が背丈ほどの束になって並び、その横に、輪にした紐とガムテープの芯が段ボール箱三つ分も詰まっていた。
「これ、全部燃えるゴミでいいよね」
大輔が紙袋の束をつかんで言った。
「だめ。先に種類で分ける」
理沙は束を取り返し、床にブルーシートを広げた。百貨店の袋、靴屋の袋、薬局の袋と、ロゴごとに仕分けていく。大輔は缶コーヒーを開け、積み上がっていく山を眺めていた。
「分けてどうするの。どうせ捨てるのに」
「数えないと、何を捨てたか分からなくなるでしょ」
「分からなくていいじゃん、紙袋だよ」
理沙は返事をせず、靴屋の袋を十枚ずつ重ねて数えた。三十年分といっても、父は几帳面ではなかった。袋の角は折れ、紐は結び目だらけで、どの箱にも蓋がない。それでも捨てずにとっておくことだけは、一度も欠かさなかったらしい。
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昼を過ぎるころには、ゴミ袋が七つ口を縛られて玄関に並んだ。物置の床には、ブルーシートの上に紙袋の山が三つ残っている。
「芯はどうする」
大輔が段ボール箱のひとつを覗き込んだ。茶色い筒が、数えきれないほど入っている。
「燃えるゴミ。紐は燃えるけど、結んだままだと収集の人が困るから、ほどいてから」
「ほどくの、全部」
「全部」
大輔は天井を見上げて息を吐いたが、結局しゃがんで紐の結び目に爪を立てた。一本目は五分かかった。二本目で諦め、はさみで切ろうとして、理沙に手を叩かれた。
「切ったら短くなって使えない」
「使わないって。捨てるんでしょ」
「捨てるけど、ほどいて捨てるの」
そのまま二人は黙って作業を続けた。外では隣の家の子どもが自転車のベルを鳴らしている。理沙はほどいた紐を巻き、巻いた紐を輪ゴムで留めて、段ボール箱の隅に積んでいった。
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夕方になって、物置の奥はようやく棚の板が見えるようになった。大輔が最後の箱を引き出すと、底のほうに、黒い持ち手のついた紙袋がひとつだけ入っていた。他の袋と違って、口が丁寧に折ってあり、中に何かが入っている。
「何これ」
大輔が中身を出した。出てきたのは、荷造り用の紐が一巻きと、ガムテープが二本と、油性ペンが一本だった。どれも封を切ったばかりで、ペンのキャップには値札のシールが残っている。
「新品じゃん」
「ホームセンターの袋だね」
理沙は紐の巻きを手に取った。他の箱の紐とは違い、結び目がひとつもなく、芯までまっすぐに巻いてある。レシートが袋の底に挟まっていて、日付は父が亡くなる二か月前だった。
「ここだけ、ちゃんとしてるね」
「お父さん、引っ越しの荷造りはいつも自分でやってたでしょ。それ用に、これだけ買い直したんじゃない」
理沙がそう言うと、大輔はガムテープを一本ずつ振って、残りの量を確かめるようにした。
「じゃあ、これはいるな。おれの引っ越し、来月だし」
「いるね」
理沙は紐を紙袋に戻し、口を元どおりに折った。大輔が缶コーヒーの空き缶を二本とも拾って、玄関のゴミ袋のほうへ歩いていく。
「これだけ車に積んでおくね」
理沙は黒い持ち手を片手に提げ、物置の戸を閉めた。
