町内の抽選で「あしたの天気」が当たったのは、八百屋の裏に住む久世さんだった。七十八で、欲しいものを聞かれると「お茶」と答える人である。権利は一日分で、今夜の十一時までに端末へ入力すれば、あす零時から二十四時まで町の上空がその通りになる。入力しなければ、いつもの予報が採用される。
朝の九時に、運動会の実行委員長が菓子折りを持って来た。縁側に座った久世さんは、端末を膝に置いたまま湯のみを両手で包んでいる。庭では昨日むいた柿が、軒下の縄に二十個ぶら下がっていた。
「あしたは町内の運動会でして。晴れにしていただけると、玉入れの子らが喜びます」
「ほう、玉入れ」
「お願いします」
久世さんは「考えておきます」と言って、菓子折りを茶箪笥の上へ置いた。
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昼前には、向かいの奥さんが洗濯かごを抱えて塀越しに顔を出した。布団も毛布も、あしたに回したのだという。「晴れなら全部干せるんですけどねえ」と言い残して、奥さんは戻っていった。久世さんは端末の画面で「晴れ」の字に指を近づけ、触れずに引っこめた。
午後には、梨畑の農家が来た。長靴のまま玄関に立って、帽子を握りしめている。ここ二週間は一滴も降らず、畑の土が割れているそうだ。
「一日降ってくれれば、土が戻るんです」
久世さんは頷いて、お茶を出した。農家は一口飲んでから「雨なら、運動会は延期ですね」と自分で言って、困った顔をした。
夕方には、花火屋の若者が来た。あす日が暮れたら、秋祭りで二百発を上げる段取りになっている。
「雲があると、色が映えないんです」
それだけ言って、若者は深く頭を下げた。
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四人が帰ったあと、久世さんは縁側に座り直した。晴れなら運動会と洗濯と花火が助かり、雨なら梨が助かる。どちらにしても、誰かの頼みごとは流れてしまう。夕飯は茶漬けにして、八時に風呂へ入り、十時に端末を出した。軒下の柿をひとつ指で押してみると、まだ固くて渋い。
十時五十分に入力を済ませると、画面が「受け付けました」と光った。久世さんは電気を消して、寝床へ入った。
理由は、柿だった。
