宇宙でいちばん遅い手紙

宇宙の観測基地の窓から見える大きな木星。窓辺に小さな郵便端末。

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木星の外側を回る観測基地「ミモザ」には、郵便の窓口がある。窓口といっても端末が一台あるだけで、地球へ送る手紙を入力して送信ボタンを押すと、手紙は光の速さで地球へ向かう。返事が届くまでには、往復で一時間と少しかかる。一時間なら、ほとんど会話のようなものだ。基地の技師たちは毎日のように、家族と短い手紙をやりとりしていた。ただし、ひとつだけ例外があった。

*

基地の奥にある古い「長距離窓口」だ。そこから出す手紙は、地球ではなく、さらに遠い、四光年あまり先を飛ぶ無人観測船へ送られる。往復で八年かかる。新人技師のカイトは、その窓口の前で立ち止まった。壁には、整備担当の老人の字でこう書かれている。

世界でいちばん遅い手紙。 返事を待てる人だけ、どうぞ。

観測船は無人で、返事を書く人間はいない。返ってくるのは、船に積まれた自動応答システムの定型文だけだ。それでも基地の人たちは、ときどきこの窓口に手紙を出していく。

「どうして、わざわざ」

カイトが聞くと、老人は帽子をかぶりなおして、にやりとした。

「八年後の自分に手紙を出すつもりで書くんだよ。返ってくるのは、その自分が受け取る手紙だ」

*

その夜、カイトは一通の手紙を書いた。宛先は、八年後の自分だ。

八年後のカイトへ。今の僕は二十三歳です。基地での生活は、思ったよりさびしいです。でも、星の写真を毎日撮っています。八年後のきみは、まだ星を撮っていますか。故郷の母さんは元気ですか。好きな人はできましたか。

書き終えて送信ボタンを押すと、手紙は光になって窓口の向こうへ飛んでいった。八年後に返事が来る。それまでは、自分の足で時間を進めていくしかなかった。

八年がたって、カイトは三十一歳になっていた。基地での仕事はいつのまにかリーダーになり、結婚もした。星の写真は、小さな展覧会を開けるほどたまっている。ある朝、窓口の端末が小さく鳴って、返信が届いた。

*

返信は観測船の自動応答だった。形式的な文面の最後に、ひとつだけ打ち込まれた一文があった。

八年前の送信者へ。 あなたの手紙は、確かに届きました。

カイトはしばらく画面を見つめていた。自動応答だと分かっていても涙がこぼれ、八年前の自分の言葉がちゃんとどこかへ届いていた気がした。窓口の壁には、整備担当の老人の字が少し色あせて残っていて、カイトはその隣に、紙を貼った。

いま読んでいる人へ。 返事を待つ時間は、自分が変わっていく時間です。

窓の向こうでは、無数の星がまたたいている。その光のひとつが八年後のどこかの誰かへ届くのだと思うと、胸があたたかくなった。

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