『オフィスの明るさは三百ルクス以上と決まっている』の目次:オフィスの明るさは三百ルクス以上と決まっている
エアコンの設定温度をめぐる小さな押し引きは、たいていの職場にある。暑い人もいれば寒い人もいて、正解はなさそうに見える。けれど事務所衛生基準規則の第5条第3項には、室温の範囲がはっきり書いてある。空気調和設備を設けている場合、室の気温は十八度以上二十八度以下、相対湿度は四十パーセント以上七十パーセント以下。ここまでは明るさの章と同じく、きれいな数字の線だ。
違うのは文の終わり方だ。照度を定めた第10条は「適合させなければならない」で終わる。第5条第3項は「になるように努めなければならない」で終わる。同じ規則のなかで、明るさは「させる」、温度は「努める」と書き分けられている。
この十八度は、もともと十七度だった。2022年4月1日の改正前の条文は「十七度以上二十八度以下」で、上の二十八度と湿度の数字はそのまま、下限だけが一度上がった。厚生労働省のリーフレットも、改正前の「17度以上28度以下」と改正後の「18度以上28度以下」を左右に並べて見せている。令和4年3月1日の施行通達は、世界保健機関(WHO)がガイドラインで、冬の高齢者の血圧上昇への影響などを考えて室内温度の低いほうの基準を十八度以上と勧告したことを理由に挙げている。同じ観点から、ビルの衛生管理を定める建築物衛生法の施行令も、居室の温度の基準を十八度以上二十八度以下に改めた。通達は、空気調和設備がない事務所でも、冷暖房器具などで十八度から二十八度にするのが望ましいと書き添えている。十七度は通達の中にも残っていて、同じ通達は昭和48年の金銭登録作業の通達と昭和50年の引金付工具の通達にあった「17℃以上28℃以下」「17℃~28℃」を、そろって「18℃以上28℃以下」に書き換えた。
「努める」の数字のすぐ手前、第4条には言い切りの数字がある。
- 室の気温が十度以下の場合は、暖房する等適当な温度調節の措置を講じなければならない(第4条第1項)
- 室を冷房する場合は、当該室の気温を外気温より著しく低くしてはならない(第4条第2項)
十度以下は「講じなければならない」で、十八度は「努めなければならない」。条文の言い回しでいえば、寒さには二つの線が引かれていて、強い言葉が使われているのは低いほうの十度だ。冷房のほうには度数がなく、外気温との差を「著しく」しないことだけが求められている。そのただし書きには、電子計算機などを置く室で、作業者に保温のための衣類などを着せた場合は別、とある。機械のために部屋を冷やす場面を、条文があらかじめ想定している。
第5条第2項にも、空気の動きの数字が一つある。設備から流れ込む空気が特定の労働者に直接、継続して当たらないようにし、室の気流を毎秒〇・五メートル以下にしなければならない。こちらの文末は「しなければならない」だ。同じ条のなかでも、気流は義務の言い方、温度と湿度は努力の言い方になっている。
空調が整えているのは温度だけではない。同じ第5条の第1項は、送り込む空気そのものに含まれてよい量を、百万分の一の単位で決めている。
参考:e-Gov法令検索「事務所衛生基準規則」/厚生労働省「事務所衛生基準規則の一部を改正する省令の施行等について」(令和4年3月1日 基発0301第1号)/厚生労働省「職場における労働衛生基準が変わりました」/e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」
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