日曜の夜十一時を過ぎて、堂本は公園の花壇にしゃがんでいた。土曜に町内会の全員で植えたチューリップの球根が、百球そのまま眠っている。堂本はスコップで黒い土を崩し、球根を一つずつ掘り出してはバケツへ入れていった。腐葉土の混ざった土は柔らかく、思ったより早く片づく。
動機は単純だった。来春に自分の庭のチューリップが公園より先に咲けば、近所の誰もが感心するだろう。堂本は町内会の会計を十二年務めて、一度も褒められたことがない。六十三歳になって、初めて人から感心されたかった。
百球を数え終えたのは日付が変わる頃だった。バケツを軽トラに積んで自宅の庭へ運び、一球ずつ植え直す。長靴は黒い土で重くなったが、洗えば水音で隣家に気づかれると思った。堂本は長靴を玄関に脱ぎ捨てて眠った。
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月曜の朝六時半、書記の水野は犬の散歩のついでに公園へ寄った。花壇の前で足が止まる。ロープの内側の土が、あちこち掘り返されていた。
水野は三十四歳で、町内会の書記を三年務めている。先月に花壇の土を入れ替えたのも水野だった。ホームセンターで買った腐葉土入りの黒土を二十袋、台車で運んだので手の感触まで覚えている。
電話が回り、七時過ぎに十人ほどが集まった。みな花壇のロープの外に立ち、中へ入る者はいない。最後に軽トラで着いたのが堂本だった。
「ひどいことをするもんだ。誰がやったんだろうな」
堂本は腕を組んで花壇を見下ろした。水野はふと堂本の足元に目を落とす。長靴が黒く湿っていた。
「朝から畑にいたんだよ。今日は土が重くてね」
堂本は聞かれもしないのに言った。水野は黙ってうなずく。堂本の畑は山寄りの赤土で、雨のあとはいつも長靴がオレンジ色になる。去年の草刈りの日に、本人がそう嘆いていた。
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夕方、水野は堂本の家を訪ねた。玄関の長靴は、まだ黒い土を付けたまま置かれている。
「長靴を見せていただけますか」
「畑の土だよ。急にどうしたんだ」
「堂本さんの畑は赤土ですよね。この土は黒くて、細かい葉の繊維が混じっています」
水野は靴底の塊を指で割って見せた。
「先月に私が二十袋入れた土です。ホームセンターで買った袋入りで、町内でこれを使っているのは公園の花壇だけです」
堂本は口を開けたまま、しばらく声を出さなかった。
「お庭の奥も、見せていただけますか」
「……裏だ」
庭の奥には、掘ったばかりの土が列になっていた。目印の割り箸が、百本きちんと並んでいる。堂本は肩を落とし、それでも顔を上げた。
「認める。だが返すのは咲いてからだ。公園より先に咲かせたいんだ。いま掘り返したら全部傷む」
水野は割り箸の列を端から数え終えた。
「では来春に咲いたら、数えに来ます。百球ありますよね」
