町でたったひとつの映画館「銀星座」が、今日で閉館する。最後の上映は午後三時、演目は五十年前の白黒の古い映画だった。観客は劇場がいっぱいになるほど集まる、はずだった。けれど客席には、たった二人しか座っていなかった。
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ひとりは高校の制服を着た少女で、前から三列目の真ん中の席に、膝の上に鞄を置いて座り、スクリーンを見つめている。もうひとりは、映写室の窓の向こうでフィルムの様子を見守っている老人の技師だった。少女は毎週土曜日にこの映画館に通っていて、席はいつも前から三列目。技師は少女の顔を覚えていたが、名前は知らず、話したこともほとんどなかった。
映画が始まると、モノクロの映像がスクリーンににじむように映し出された。フィルムの傷が、細い雨のように画面を走る。老人は映写機のがらがらという音を聞きながら、五十年を思い返した。若いころにこの仕事を継いで、結婚して、子どもが生まれて、独り立ちして、妻が亡くなった。映写室の窓から見える客席の灯りだけが、人生の目印だった。
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映画が終わり、劇場の灯りがゆっくりともった。少女はしばらく動かずにいて、それから立ち上がり、後ろを振り返って、映写室の窓に向かって深く頭を下げた。老人は窓を開けて顔を出し、「ありがとう」と言おうとして喉がつかえた。先に口を開いたのは、少女のほうだった。
「あの。ずっと通っていました。この映画館がいちばん好きでした」
老人はうなずいた。うまく言葉が出なかった。少女は鞄から封筒を取り出した。
「これ、よかったら受け取ってください」
封筒の中には、劇場の入口で毎週買ったチケットの半券が入っていた。日付と席番号が几帳面に並んでいて、数えると百二十八枚あった。
「一枚ずつ取っておいたんです。いちばんの宝物です。この映画館がなくなっても、忘れないために」
老人は半券を見つめて、そのうちの一枚を取り出した。日付は二年前の冬、雨の日のものだった。
「あの日のことは覚えているよ。傘を忘れて、ずぶ濡れで入ってきた」
少女は顔を赤くして、はにかんだ。
「覚えていてくれたんですね」
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夕方、老人は一人で映写室を片づけた。フィルムの缶をひとつずつ箱にしまい、映写機のレンズを布で拭く。窓の外に貼ってあった古いポスターだけは、はがさなかった。「銀星座 営業時間 午前十時~午後九時」。
扉を閉める前に、老人は少女のくれた半券を胸ポケットに入れて、誰もいない客席に向かって言った。
「ありがとう。長いこと、おつかれさま」
外へ出ると、夕方の風が冷たかった。老人は胸ポケットの半券を、上着の上から軽く押さえた。
