図書館は何を借りたか外に出さない

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図書館は何を借りたか外に出さない 第1章

『図書館は何を借りたか外に出さない』の目次:図書館は何を借りたか外に出さない

貸出カウンターに本を置くと、書名は職員の目に入る。バーコードを読めば、画面にも出る。分厚い法律書でも、病気の本でも、旅行の雑誌でも変わらない。手続は、隠しようのない場所で進む。列の後ろに並ぶ人から、表紙が見えることもある。予約した本を受け取るときも、事情は同じだ。借りる側も、そのことはなんとなく分かっている。分かったうえで、本を差し出している。それでも、その中身が図書館の外へ運ばれることはない。知っている人がいるのに、話は外へ出ていかない。誰も見ていないのではない。見た人が、外で話さないのだ。考えてみると、少し不思議な取り合わせだ。見えてしまう仕組みの上に、貸出の便利さは乗っている。だからこそ、出さないという約束が別に要る。

その約束は、日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」に書かれている。1954年に採択され、1979年に改訂された文書だ。宣言はまず、知る自由をもつ国民に資料と施設を提供することを、図書館のもっとも重要な任務に据える。そのうえで、資料収集の自由、資料提供の自由、利用者の秘密、検閲への反対という四つの柱を立てる。秘密の柱は第3で、見出しは「図書館は利用者の秘密を守る」。その1は、読者が何を読むかはその人のプライバシーに属する、という一文から始まる。続けて、図書館は利用者の読書事実を外部に漏らさない、と言い切る。漏らさない相手を細かく並べる言葉はない。「外部」という一語で足りている。短い文だが、向きははっきりしている。守られるのは本のほうではなく、読む人のほうだ。宣言は法律の条文ではない。協会が掲げ、多くの図書館が拠り所にしてきた原則だ。館のなかに宣言を掲げている図書館もある。カウンターの奥で働く人たちは、この約束のうえで本を手渡している。

ここで読み違えやすい点がひとつある。宣言は、誰も記録していない、とは書いていない。貸出中の本を返してもらうには、誰が借りたかが分からないと困る。記録そのものは、貸出の仕組みに組み込まれている。宣言が引く線は、記録があるかどうかではない。外部に漏らすかどうかだ。どこまで残し、いつ手放すかは、また別の層の話になる。ふたつを混ぜると、記録があるなら筒抜けだ、という早合点にも、記録がないから安心だ、という思い込みにもつながる。第3には、まだ続きがある。同じ項のただし書きには、令状を確認した場合の例外が置かれている。その令状にも、憲法第35条にもとづくもの、という限定がつく。読書記録以外の利用事実と、図書館で働く人が守る秘密にも、それぞれ項が立っている。どれも、外に出さないという一行を支える側にある。本を借りる手軽さの裏には、知る自由のための秘密がある。

参考:日本図書館協会「図書館の自由に関する宣言」

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