敬語の本 第6章
第5章では二重敬語を整理しました。ここでは、「とんでもございません」は間違いなのか、というよくある不安を取り上げます。部長に褒められて思わず使ったあと、使わないほうがよいと聞いたことを思い出した、という場面が「敬語の指針」の問いにも出てきます。
指針の47頁の答えは、はっきりしています。「「とんでもございません」(「とんでもありません」)は,相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消すときの表現であり,現在では,こうした状況で使うことは問題がないと考えられる」という記述です。褒め言葉を謙遜して打ち消す場面に限れば、誤りとして扱わなくてよいという立場です。
使わないほうがよいと言われる主な理由も、同じ頁で説明されています。「とんでもない」は全体で一つの形容詞なので、「ない」の部分だけを「ございません」に変える発想に問題がある、という考え方です。この立場からは、「とんでもないです」「とんでもないことでございます」「とんでものうございます」とすればよいことになります。
ただし指針は、意味のずれにも注意を促しています。「とんでもございません」と「とんでもないことでございます」は、表そうとする意味が少し違うという点です。褒められた場面で後者を使うと、相手の褒めたこと自体が「とんでもないこと」だという意味に取られるおそれがあるとしています。
反対に、ある人の行いをとんでもないことだと言いたい場面では、事情が変わります。この場合は「とんでもございませんね」とは言えず、「とんでもないことでございますね」なら普通に使えるとされています。指針が問題ないとしているのは、あくまで褒めを軽く打ち消す使い方です。
NHK放送文化研究所の記事は、二つの場面で違和感を尋ねた調査結果を紹介しています。一般に許されない行動について言う場面では、違和感があるという回答は「とんでもありません」が31%、「とんでもございません」が53%で、「とんでもないことです」は20%でした。
一方、相手のお礼の言葉を儀礼的に打ち消す場面では、「とんでもありません」が19%、「とんでもございません」が20%と小さく、「とんでもないことです」は47%と大きくなっていました。記事は、こうした打ち消しの場面では「とんでもございません」が現実にかなり広く受け入れられていると述べています。指針の考え方に近い結果です。
使い分けの決め手は、何を打ち消しているかです。相手の褒め言葉やお礼を謙遜して打ち消すなら「とんでもございません」で問題ありません。ある行為をとんでもないと評するときは、「とんでもないことでございます」の形を使います。
次の章では、拝見と拝読の違いを取り上げます。
参考:文化審議会答申「敬語の指針」/NHK放送文化研究所「『とんでもありません(とんでもございません)』という言い方は、とんでもない?」
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