むかしむかし、ある町の屋根の上に、ひるねの名人のねこが住んでいました。みんなはそのねこを、ねこ先生と呼んでいました。ある日、子ねこのみけが先生のところへやって来ました。
「先生、ぼく、眠れないんです。夜も昼も、目がぱっちりして」
ねこ先生はあくびをひとつして言いました。
「それはたいへんだ。では、ひるね教室の始まり始まり」
第一の教え 日だまりをさがす
「ひるねでいちばん大事なのは、日だまりを見つけることだよ」
先生とみけは、屋根の上を歩きました。ひとつ目の日だまりは、せまくてかたい瓦の上で、みけがごろんと寝転ぶと、背中がごつごつして眠れません。
「ここは、ちがうみたい」
「うん、ちがうね」
ふたつ目の日だまりは、にぎやかな通りの上でした。車の音がうるさくて、みけの耳がぴくぴく動きます。
「ここも、ちがうみたい」
「うん、ちがうね」
第二の教え からだをまるめる
三つ目の日だまりは、パン屋さんの裏のベランダでした。あたたかい風がふわふわと吹いています。
「ここだ」と先生が言いました。「さあ、からだを丸めてごらん。しっぽは、あごの下に入れるんだよ」
みけがくるりと丸まって、しっぽをあごの下に入れると、体じゅうがぽかぽかしてきました。
第三の教え なにもしない
「最後の教えだよ。これがいちばん難しい。なにもしないことだ」
みけは目を閉じましたが、すぐに目が開いてしまいます。
「先生、なにもしないって、どうするの」
「パンの匂いがするだろう。それを数えてごらん。一つ、パンの焼けた匂い。二つ、バターの匂い。三つ、甘いジャムの匂い」
みけは数え始めました。一つ、二つ、三つ。いつのまにか数えるのを忘れて、すう、すうと眠っていました。
夕やけのころ
みけが目をさますと、空はみかん色に染まっていて、となりで先生も丸くなっています。
「ぐっすり眠れたね」
先生がのんびり言いました。
「ひるねは、いちばんやさしい魔法だよ。自分で自分を休ませてあげる魔法なんだ」
みけはぴんと背伸びをしました。体がふわふわと軽くなっています。
「先生、ありがとう。ぼく、夜も眠れる気がする」
その晩、みけは丸くなって、数える間もなく眠りました。
おしまい
