冬の終わりの、寒い朝のことでした。畑のすみに、雪だるまが一人で立っていました。少し前から、雪だるまは自分の体が軽くなっていくのを感じていました。お日さまが、日ごとにあたたかくなっているのです。
「もうすぐ、ぼくはとけてしまうんだな」
雪だるまは、さびしくはありませんでした。ただ、足もとの土の中で眠っているたねたちのことが気になっていました。
土のなかのひみつ
たねたちは、ふかふかの土の中で、じっと春を待っています。まだ話すことも、動くこともできません。
「あの子たちに、なにか贈りものをしたいな」
雪だるまは少し考えました。お金もおもちゃもありません。あるのは、白い雪の体と、鼻にさしたにんじんだけです。
「そうだ。手紙を書こう」
雪だるまは、枝の腕で、かた雪の上に文字を書きました。
たねさんたちへ。もうすぐ春がきます。ぼくはとけて水になって、きみたちのところへ行きます。きみたちがちゃんと芽を出せるように。
あたたかい日
次の日は、ぽかぽかとあたたかい日でした。雪だるまの体が、ぽたり、ぽたりととけ始め、しずくは土の中へしみこんでいきます。かすかな音で、ぽとん、ぽとん。
そのとき、土の中でいちばん小さなたねが、うっすらと目を開けました。
「あれ、なんだかあたたかい」
となりのたねも目をさましました。
「お水だ。おいしいお水だ」
みんなは一つ、また一つと目をさまして、しずくにありがとうと言いました。雪だるまの耳に、ありがとうの声は届きませんでした。けれど、最後の雪のひとかけらがとけ終わるとき、雪だるまは満足そうに笑っていました。
春のはじまり
やがて畑には、青い芽がぴょこぴょこと顔を出しました。芽の先で、水のしずくがきらきらと光っています。お日さまがのぼると、しずくは朝の光を浴びて、まぶしいほどにきらめきました。
畑のすみには、にんじんがひとつ、ころんと転がっていました。それは、雪だるまの鼻でした。春の風がさあっと吹いて、にんじんに触れていきました。
おしまい
