僕の部屋には、小学生の頃から使っている古い目覚まし時計がある。青い文字盤で、秒針がかち、かちと大きな音を立てる。七時にセットすれば七時ぴったりに鳴る。それがこの時計の唯一の取り柄だった。ところが、ある朝、事件が起きた。七時にセットしたはずの時計が、六時に鳴ったのだ。
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眠い目をこすりながら時計を見ると、針は確かに六時を指していた。セットを間違えたのかと思ったが、アラームのつまみは七時のところにある。故障かと思って、その日は新しい電池に替えたのに、翌朝も鳴ったのは六時だった。その次の日は五時半、さらに次の日は六時半。時計は毎朝、ばらばらの時間に鳴り始めた。
僕は時計をにらみつけた。
「いい加減にしろよ」
すると時計の針がかち、とひとつ揺れて、ささやくような声が聞こえた。
「ちがうよ。ぼくは、きみが本当に起きたい時間に鳴っているんだ」
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僕は思わず時計を落としそうになった。時計がしゃべったのだ。しかも、妙にのんびりした口調で。
「起きたい時間って、どういうこと」
「きみは毎晩、アラームを七時にセットする。でも本当は、朝のうちに、あの河原を散歩したいんだ。だから五時半とか六時に目が覚める。ぼくはそれに合わせているだけ」
思い当たることがあった。ここ半年、仕事が忙しくて朝の散歩をさぼっていたけれど、心の奥では、ずっとあの朝の河原を歩きたいと思っていたのだ。
「じゃあ、きみは故障じゃないんだね」
「うん。ぼくは、たぶんきみより、きみのことが分かっているよ」
時計は得意げに針を揺らした。
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それから僕は、時計の指示に素直に従うことにした。鳴ったら起きて、顔を洗い、河原まで歩く。朝の冷たい空気を胸いっぱいに吸いこむ。三週間後、また不思議なことが起きて、時計は毎朝、六時ちょうどに鳴るようになった。
「あれ、もうばらばらには鳴らないの」
「うん。きみが自分で、起きたい時間を決めたからね。ぼくの出番は、もうおしまい」
時計は少しさみしそうだった。僕は時計をそっと撫でた。
「出番はおしまいじゃないよ。これからも毎朝六時に起こしてくれるんだろう」
時計はかち、かちと秒針を鳴らして、うれしそうに笑った。
