あるあさ、洗濯機のふたがあいて、青いくつしたの片方が出てきました。
「あれ。ぼくだけだ」
かごの底をのぞいても、タオルとシャツばかりです。相方のすがたはありません。
「ぼくの相方、しらない?」
聞かれたシャツは、ぐったりしたまま言いました。
「ぬれすぎて、なにも見えないよ」
「ぼくは見えてるよ。ぼくの相方がいないことが」
「それは見えすぎだね」
そこへひょいと持ちあげられて、くつしたはベランダへ運ばれました。
手すりに雀がいました。
「やあ。わすれものですか」
「相方をさがしてるんだ。青くて、ぼくと同じ形なんだよ」
「ふむ。見ていませんね。パンくずなら見ました」
「パンくずじゃないよ」
「では、ミミズですか」
「もっとちがうよ」
「そうですか。では、ごきげんよう」
雀は何の役にも立たないまま、飛んでいきました。
くつしたは洗濯ばさみにはさまれて、物干しざおにぶらさがりました。
「痛いかい? ぼくはいつも強くはさむんだ。性分でね」
「ちょっと痛いよ。ねえ、青いくつしたを見なかった?」
「相方なら、ぼくにもいるよ。あっちの赤いやつさ。いつもけんかしてるけどね」
「それ、相方っていうの?」
「相方ってのは、そういうものさ」
そのとき、ごうっと風がふきました。ぱちん、と洗濯ばさみがはずれます。
「ああ、はなれちゃった」
「いってらっしゃーい」
くつしたは空をくるくるとんで、公園の砂場のそばに落ちました。
ベンチの下に、茶色い手袋がありました。片方だけです。
「あなたも片方なのね」
「うん。きみも?」
「三年前の冬からよ。もう三回、雪を見たわ」
「長いなあ。相方は、さがさないの?」
「あきらめたの。いまは落とし物の係をしてるわ」
「仕事、あるの?」
「ないわ。だから、ずっとひまよ。今日はきみが来て、にぎやかだけど」
ふたりは、しばらく黙っていました。
「ねえ。ぼくたちで、組まない?」
「くつしたと手袋で?」
「ぜんぜん合わないね。色も、大きさも、使う場所も」
「合わないわね。足と手だもの」
「でも、片方どうしだよ」
「……そうね。まあ、いいか」
*
つぎの日の朝です。公園に男の子がやってきて、ベンチの下をのぞきました。
「あっ、ぼくのくつした。手袋もある」
男の子は、青いくつしたを右足にはきました。茶色い手袋は、左手にはめました。
「ちぐはぐでいいや」
男の子は、ぱたぱたと走りだしました。
ゆれる足と手で、くつしたと手袋はならんで出かけました。
手袋が声をかけました。
「どう? わるくないでしょ」
「うん。ぼく、足だけど」
おしまい
おしまい
