むかしむかし、山の上に古い時計台があって、ふもとの村の時間を守っていました。番人は、ミネさんというおばあさんです。毎晩、最後にねじを巻くのが仕事でした。
ある夜、ミネさんがねじを巻いていると、窓の外で細い声がしました。
「すみません。夜分に」
窓のふちに、一匹の蛍がとまっていました。お尻が、まっ暗です。
「池に光を落としてしまいました。朝までに探したいのです。月さんに、今夜だけ貸してもらえませんか」
ミネさんは窓を開けて、空へ声をかけました。
「月さん、お客さんですよ」
「聞こえておる。光なら貸そう」
月は、雲のふちから顔を出しました。
「ただし、朝には返すこと。わしの光だからな」
*
月は、豆ほどの光をひとつぶ落としました。蛍がお尻につけると、ぱっと辺りが明るくなりました。
その光が、強すぎたのです。時計台の文字盤はまぶしく光り、ふもとではにわとりがいっせいに鳴きました。パン屋は飛び起きて、まだ夜中なのに、かまどに火を入れました。窓の外には、蛾が何十匹も集まって、文字盤にぶつかっては落ちていきます。
「蛍さん、それは多すぎますよ」
蛍はあわてて、羽でお尻をおおいました。ミネさんは空を見上げました。
「月さん、少し返します。村中が起きてしまう」
「もう返すのか。しかたない」
月は、豆をぱかっと割って、半分だけ受け取りました。
「残りの半分を貸しておく。朝には、そっくり返すのだぞ」
*
今度は、ちょうどよい明るさでした。蛍は山をおりて、池へ飛んでいきました。ミネさんは窓から、ちらちら動く光を目で追いました。
池のふちを一周し、ひしの葉の下をのぞき、石の裏ものぞきました。そこで、かえるが目をさましました。
「だれだ。まぶしいじゃないか」
「すみません。落とし物を探しているのです」
すみのほうで、かたつむりが首をのばしました。
「落とし物か。わたしも昨日、家を落としたよ」
「それは、背中にありますよ」
蛍が教えると、かたつむりは「ああ」と言って、また眠りました。
かえるが、あくびをして続けました。
「蛍の落とし物なら、あの葉の上だ。さっきから、ぴかぴか寝ているぞ」
行ってみると、ひしの葉の上で、蛍の光がすやすやと眠っていました。蛍はそれをお尻につけなおすと、急いで山を登りました。
*
明け方、蛍は窓のふちで、借りた光を月へ差し出しました。
「おかげで見つかりました。お返しします」
月は、光を手のひらにのせました。ゆらゆらと量って、首をかしげました。
「貸したときより、ひとつぶ重いな。池の水が混じっておる」
おしまい
おしまい
