むかしむかし、野原のすみに、ねずみの一家が住んでいました。お父さんとお母さんと、子ねずみが三匹です。ある朝、お父さんが穴の天井を見上げて言いました。
「ずいぶん古くなったな。川の向こうの大きな木の根もとへ、引っ越そう」
荷物は、たんすと、漬物石と、枕と、鏡と、ランプです。どれもねずみには重すぎて、一家は道ばたで息をはあはあさせました。
*
そこへ、のっそりと、かめが通りかかりました。
「おや、引っ越しかね。わたしは川の向こうへ行くところだよ」
「それなら、うちのたんすを少しだけ預かってくれませんか」
かめは、こうらの上にたんすを乗せました。たんすは、かめの背中で、ちょうどよく座りました。
次に会ったのは、にわとりです。
「うちの漬物石を、少しだけ預かってください」
「まあ、まるくて、いい石だこと」
にわとりは石を羽の下に入れて、じっとあたため始めました。
三番目は、野原の木かげで昼寝をしていた、くまでした。
「うちの枕を、少しだけ預かってもらえませんか」
くまは枕を頭にしくと、一秒もたたないうちに、いびきをかき始めました。お父さんが背中を押して起こすと、くまは枕を抱えたまま、ふらふらと歩き出しました。
四番目は、きつねでした。
「うちの鏡を、少しだけ預かってください」
きつねは鏡をのぞいて、目を丸くしました。
「おや、きつねがいる。いい顔をしているな」
きつねは鏡を、大事そうに脇にかかえました。
*
日が暮れかけたころ、川を渡った一家の前に、ふくろうが現れました。
「夜道は暗いぞ。何か預かろうか」
「それなら、うちのランプを少しだけ預かってください」
ふくろうがランプをくわえて羽ばたくと、道がぽうっと明るくなりました。
こうして一家は、大きな木の根もとに着きました。穴の前に、かめも、にわとりも、くまも、きつねも、ふくろうも、ぞろぞろと並びました。
「みなさん、ありがとうございました。荷物を返してください」
お父さんが言うと、かめがたんすを下ろしました。にわとりが石を出し、くまが枕を置き、きつねが鏡を渡し、ふくろうがランプを置きました。
そして五匹は、声をそろえて言いました。
「返したから、こんどは、うちの荷物を少しだけ預かって」
かめは冬の毛布を、にわとりは麦の袋を、くまははちみつのつぼを持ってきました。きつねは古い帽子を、ふくろうは大きな本を持ってきました。穴の中は、あっという間に荷物でいっぱいになりました。
「お父さん、ここはだれのおうち?」
子ねずみが聞きました。お父さんは、頭をかきました。
「引っ越してきたのは、うちのはずだがなあ」
おしまい
おしまい
