今朝、改札のゲートが目の前で閉まった。残高が足りなかったのである。精算機の列に並びながら、この一年で何度こうなったかを数えはじめた。手帳にもスマホにも記録はないので、場面だけを頼りに思い出していく。
一回目は去年の十月の終わり、雨の日だった。右手に傘、左手に鞄を持っていて、カードを出す手が足りなかった。鞄を腕にかけ直して当てたときには、もう赤い光が点いていた。傘の先から落ちた水が床に丸い跡をつくり、後ろの人の靴が半歩下がる音がした。
二回目は十二月、寝坊して走った朝である。前の人の背中に合わせて入ればいけると踏んで、ほとんど体当たりのように進んだ。ゲートは容赦なく閉じて、鞄だけが向こう側へ出た。後ろに並んでいた人は、迷いなく隣の列へ移っていった。その移り方の速さのほうが、閉まった音より身にこたえた。
三回目は一月の夜で、鍋と長ネギの入った買い物袋を両手に下げていた。カードは腰のポケットにあって、取り出せない。肘でどうにかしようとして、肘が当たったのはゲートの壁だった。袋の中でネギが傾いたのを、今でも覚えている。
四回目は三月で、スマホの画面を見たまま歩いていた。当てたつもりが、カードは読み取り面の手前で空を切っていた。五回目は五月、財布の中で二枚のカードが重なっていたらしく、短い警告音が鳴ってゲートが閉じた。どちらも、閉まってから自分の手元を見て、ようやく何が起きたかを知った。
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六回目は八月の暑い日の夕方、これも残高不足だった。ゲートの脇に立っていた駅員が、カードの表示を見て、私の顔を見て、それから「どうぞ」と言って手を動かした。その「どうぞ」の前に、一拍の間がある。私はその一拍のあいだ、財布を握ったまま何も悪くない顔をしようとして、たぶん失敗していた。
七回目が今朝である。駅員の姿はなく、精算機の列に並んでチャージをして、一本遅い電車に乗った。七回という数が多いのか少ないのかは分からない。月に一度もない計算になるが、無事に通れた朝のほうは、数えようがなかった。
翌朝、今朝チャージしたカードを、いつものポケットから出した。前の人が通り抜けて、ゲートが開いたまま待っている。読み取り面に当てると、短い電子音が一つ鳴った。私は通り抜けた。後ろの人の足音が、すぐに続いた。
