深夜一時に麦茶を取ろうと冷蔵庫を開けたら、奥のほうに見慣れない瓶が並んでいた。手前の納豆やヨーグルトをどけて、奥から順に取り出していく。ナンプラー、オイスターソース、豆板醤、ゆずこしょう、それから赤い蓋のスイートチリソース。ラベルの日付を読むと、ナンプラーは二年前の秋で止まっていた。台所の床に瓶を並べると、蛍光灯の下でどれも少しだけ茶色い。
ナンプラーは、ガパオライスを一回だけ作った日の残りだ。あの頃は在宅勤務が続いていて、昼にやることがなくて、レシピ動画を三本続けて見た勢いで買った。大さじ一杯使ったきりで、瓶の肩のあたりまで中身が残っている。ガパオは普通においしかった。ただ、二回目を作る理由が見つからなかった。
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豆板醤は麻婆豆腐の日で、これは覚えている。本格的に作ってみたくて、花椒も買った。花椒の袋は戸棚の奥で今も未開封のはずだ。豆板醤の蓋を開けると表面が黒ずんでいて、においを嗅ぐ気にはならなかった。
ゆずこしょうは鍋の日のもので、緑のチューブがほぼ満タンのまま出てきた。冬に二回鍋をやって、そのあと春が来た。ゆずこしょうに罪はない。ただ、鍋のない季節に冷蔵庫へ居続けると、急に居候の顔になる。
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ここまで並べてみて、気づいたことがある。使いかけの瓶はどれも、私が何かに凝ろうとして、一回で満足した跡だった。しかも買った時期はぜんぶ違うのに、減り方はほとんど同じで、どれも三分の一も使っていない。
最後に奥から出てきたのは、ラベルの読めない小さな瓶だった。振ると中で黒い何かが動く。何を作る気だったのか、記憶にまったくない。
この中でいちばん長く私の家にいるのは、たぶんこれだ。
