八月の初め、ひなたの母が星見荘を訪ねてきた。大きな荷物と保冷バッグを両手に提げて、坂の下からゆっくり上ってくる。ひなたは門の前で手を振った。
「お母さん、こっち」
母は息を切らしながら顔を上げた。
「あんた、こんな坂のてっぺんに住んでるの。毎日大変でしょう」
「慣れたよ。意外と楽しいんだ」
*
トメさんが玄関で母を迎えてくれて、二人はすぐに打ち解け、お茶を飲みながら世間話に花を咲かせた。母が持ってきた手作りの梅干しと干物は、星見荘の全員に配られた。夜は、みんなで母の持参した魚の夕食を囲んだ。凛さんも葉山さんも、母にあれこれとひなたの様子を話してくれる。
「この子、最近毎晩、屋根裏で星を見てるんですよ」と凛さんが言うと、母は目を丸くしてひなたを見た。
「あんたが。星を」
「うん。お母さんにも見せたいって、手紙に書いたでしょう」
八月十二日の夜は、ペルセウス座流星群が極大をむかえるとされる日だった。ひなたは母の手を取って、屋根裏の梯子を上った。
*
ドームの天窓を開けると、夜空には満天の星が広がっていた。母は屋根裏の床に座りこんで、空を見上げる。
「わあ。こんなに星があるの」
しばらく二人は黙って空を見ていた。そのとき、ひとつ、すうっと白い線が空を走り、母が小さく声をあげた。
「流れ星」
「うん。今夜はたくさん流れるんだって」
二つ、三つと星が流れていく。母は目をきらきらと輝かせていて、それは、ひなたが子どものころに見た母の笑顔と同じだった。
「お母さん、願いごとした?」
「した。あんたが元気で、毎日楽しく暮らせますように」
ひなたは胸がいっぱいになって、母の隣で肩を寄せた。
「わたしもした。お母さんがずっと元気でいてくれますように」
母はひなたの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「なに言ってるの。まだまだこれからよ」
夜空には星が流れつづけていて、二人はいつまでも肩を並べて、空を見上げていた。
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