十月の朝は、窓を開けた瞬間に分かる。空気が違うのだ。夏の朝の空気は湿り気を帯びて重たく、冬の朝はきんと冷えて鼻の奥が痛くなる。十月の朝はそのどちらでもなく、軽くて乾いていて、少しだけ冷たい。この空気を、どう言葉にしたらいいのか。ずっと考えている。
音で言うなら
音にたとえるなら、「ささやき」に近い。夏の朝は蝉の声や車の音でにぎやかだったが、十月は音がひとつずつ静かになって、遠くを走る電車の音さえ、輪郭がくっきりと聞こえる。落ち葉が風に押されて、こつ、こつと歩道を転がっていく。そのささやかな音がよく聞こえる朝は、空気が澄んでいる証拠だ。
色で言うなら
色にたとえるなら、薄い水色とかすかな金色が混ざったような色だ。空の青さが夏より一段遠くなって、朝日が斜めから差しこみ、建物の壁を金色に染める。同じ街の景色なのに、薄いフィルターを一枚かけたようにやさしく見えて、毎日歩く道が、少しだけ新しい場所に変わる。
匂いで言うなら
匂いにたとえるなら、乾いた土と、どこかで焼いているパンの匂いだ。十月の朝は、遠くの匂いまでよく届く。金木犀の香りが、風に乗って道の向こうから運ばれてくることもあって、あの香りを嗅ぐと、一年がもう後半に入ったのだと毎年思い知らされる。それは少しさみしくて、でも悪くない気持ちだ。
十月の朝にしかできないこと
十月の朝は、一年の中でも特別に散歩に向いている。暑くも寒くもなく、上着が一枚あれば足りる。いつもより十分だけ早く起きて、いつもの道を遠回りしてみる。それだけで、一日の入口が少しやさしくなる。
ささやかな習慣は、きっと暮らしを少しずつ変えていく。十月の朝の空気を胸いっぱいに吸いこんで、今日を始めよう。
