秋の終わりの川のほとりに、かわうそが一匹で住んでいました。木の葉はほとんど落ちて、川の水は朝になると手がしびれるほど冷たくなりました。かわうそは冬ごもりの用意に、巣の入り口の前へ石を並べることにしました。石が並んでいると安心しますし、数えているうちに眠くなるからです。
夕方、かわうそは平たい石を十個、川原から運んできて、一列に並べました。端から順に手でぽんぽんと叩いて、数えます。
「いち、に、さん、し、ご、ろく、なな、はち、く、じゅう。十個。よし」
かわうそはうなずいて、巣にもぐって寝ました。
朝になって、かわうそは石を数え直しました。列の端から、ひとつずつ叩いていきます。
「いち、に、さん、し、ご、ろく、なな、はち、く。九個」
かわうそは首をかしげました。もう一度数えても、九個です。ゆうべは確かに十個でした。川のふちを見ると、列の端から少し離れた水ぎわに、灰色の石がひとつ転がっています。かわうそはそれを拾って、列の端に戻しました。
「十個。ほら、あった」
*
その日の夕方、かわうそは石を三回数えました。何回数えても十個です。それでも朝になると、石は九個になっていました。灰色の石は、きのうより川の中へ入って、半分だけ水につかっています。
「おかしいな。石は歩かないはずだけどな」
かわうそは水の中へ手を入れて、石を拾い上げました。石は冷たくて、ほんの少しだけ重たく感じました。列に戻して数えると、また十個になりました。かわうそは寝ぼけて自分が動かしたのだと思うことにして、その日は早めに巣に入りました。
三日目の夕方、かわうそは石を十個きちんと並べると、巣の入り口に腹ばいになりました。今夜は寝ないで、石を見張るつもりです。月が川の上にのぼって、石の列を白く照らしました。かわうそは眠くならないように、数える歌を小さく歌いました。
「いち、に、さん、し、ご。ひとつ足りない、ろく、なな」
夜が深くなったころ、列の端の灰色の石から、にゅっと頭が出ました。つづいて足が四本、のそり、のそりと出てきます。石はカメでした。カメは列からはずれると、川のほうへゆっくり歩いていきます。
「あ」
かわうそが声を出すと、カメはぴたりと止まりました。それから頭も足も引っこめて、石のふりをしました。石にしては、ずいぶん下手なふりでした。かわうそは起き上がって、水ぎわまで行きました。カメの甲羅は、雨あがりの石と同じ色をしています。
かわうそはカメを持ち上げて、しばらく眺めました。カメは何も言いません。かわうそも何も言いません。それから列の端まで運んで、そっと置きました。
「十個」
かわうそはそう言って、川原へもう一度下りました。ちょうどいい丸さの石をひとつ選んで、抱えて戻ってきます。それをカメの隣に置いて、数えました。
「いち、に、さん、し、ご、ろく、なな、はち、く、じゅう、じゅういち。ひとつ多い」
かわうそは、ふふんと鼻を鳴らしました。多い分には、数え間違いにはなりません。かわうそは石の列のはしに丸くなって、さっきの歌をまた歌いはじめました。
「いち、に、さん、し、ご。ひとつ多い、ろく、なな」
どこまで歌ったのか、かわうそにも分からなくなりました。月は川の上で傾いて、石の列は夜のあいだじゅう、十一個のままでした。
おしまい
おしまい
